「ミホも辞めた」

 

「ていうか、辞めさせられた」

 

揚げ春巻きのカリッとした食感。

 

祐子は味噌汁を一口飲んだ。

 

僕は話の続きを待っていた。

 

「詳しいことは言えないけど、トラブルがあって」

 

「あなたの後輩とは関係ないよ」

 

「その人が会社辞めたのは、多分ミホのせいだろうけど」

 

今日は雨降りだった。

 

やはり今日はいつもと違うのだろうか。

 

「もうやめよう。この話は」

 

そう、こんな話では癒しにならない。

 

「この後、少し時間ありますか」

 

祐子はじっと僕の目を見ている。

 

「この後はまずいけど、夕方なら」

 

「でも、そっちが仕事か」

 

「大丈夫です。夕方で」

 

僕と祐子は雨の落ちる通りに向かって階段を上がっていく。

 

「また、連絡します」

 

「こっちから連絡しようか」

 

「あたし、待つのが苦手だから」

 

祐子が傘をさして遠ざかっていく。

 

方向は同じなのに、

 

僕はいつも祐子が人ごみに紛れてから歩きはじめる。

 

「雨の日と月曜日はいつも僕を憂鬱にさせる」

 

僕はある曲の歌詞を思い出した。

 

今日は月曜日。しかも雨降り。

 

いつものように心が晴れないのは

 

天気のせいなのだろうか。

 

僕はいつもと逆の方向に歩きだす。

 

少し遠回りをすることにした。