「先輩、金貸してくださいよ」

 

貸してもいいけれど

 

ちゃんと返ってくるかは期待できない。

 

ちょっとした金額なら

 

こいつに貸しを作っておくのも悪くはないけど

 

理由を聞いてやめることにした。

 

キャバクラに通い詰めているらしい。

 

「ミホちゃんって子がいたでしょう」

 

そう言われても、女の子の顔も名前も

 

ほとんど覚えていない。

 

ポケットの中あった名刺はすべて捨ててしまった。

 

「ミホちゃんの友だちが先輩に会いたいらしいんですよ」

 

「その子の名前は」

 

名前を聞いてもわからないとは思ったけれど

 

一応聞いてみた。

 

「何ていったかな、エリカとかそんな感じだったような」

 

やはり、聞いた意味はなかった。

 

僕の記憶に何一つ当てはまるものはない。

 

「とにかく、もう一度行きましょうよ」

 

「お金はどうにかしますから」

 

こいつの金を当てにしてはいけない。

 

直感的に僕はそう思う。

 

「自分の分は自分で出すよ」

 

思わずそう言ってしまう。

 

これは誘導尋問ではないのか。

 

僕は行く気などないのに、

 

行ってもいいようなことになってしまっている。

 

「いいんですか」

 

「先輩のおごりで」

 

ちょっと待て。

 

僕は自分の分を出すといっただけで

 

おまえの分まで出すとは言ってない。

 

「先輩太っ腹ですね」

 

たしかに最近少し腹は出てきているけれど

 

太っ腹じゃない。

 

キャバクラにお金を使うなら

 

スポーツジムにでも行ったほうがいい。