「仕事の話だったの」

マリが店を出て行ったあと、

カウンター席に戻った僕にママがきいた。

「そんなとこかな」

「ごめんね、店使わせてもらっちゃって」

「ウチはかまわないのよ」

「今の助手さんでしょう。

フミちゃんが大連で見かけたって」

「そうなの」

ミミちゃんが言ったことに僕は少し考え込んでしまう。

マリに大連のこと話したかな。

それに、マリは助手じゃなくて

パートなんだけど。

たしかにこの件では助手以上に

働いてもらっている気がする。

「大変そうだね、今度の仕事」

ミミちゃんが僕の隣で興味ありげに笑っている。

「わかってるよ。何とか義務っていうやつでしょう」

「守秘義務」ママはビールを飲みながらそう言う。

いつのまにか客は僕だけになっていた。

「最近いまひとつなの。

ネネは週末しか入れないし」

ミミちゃんが元気なさそうにそう言う。

「アミ、どうも男がいるみたいなんだけど、

あんまりよろしくないのよね」

「ヤバそうな人」

「そうじゃないんだけど、

アミのお金をたよりにしてるみたいで」

「自分では会社をやってるって言ってるみたいだけど。

身なりだけはいいから」

「なるぼどね」

「あたしもあまりかかわりたくないし」

「アミちゃんの居場所だけつかんでいてくれれば

それでいいよ。

男のほうは依頼人と関係があるようには思えないし」

「それでいいよね」

「飲んでいかないの」

「それはまた今度」

「ねえ、コウちゃん。さっきの子ウチで働かないかな」

ママがぼくに言う。

「さあどうだろう。今度聞いてみるけど」

「忙しそうなんじゃない」ミミちゃんが言う。

「いいと思うんだけどなあ」

ママの言葉にミミちゃんはちょっと不機嫌そうな顔をする。

「ネネちゃんとはタイプが違うからね」

僕はミミちゃんの顔をうかがいながらそう言った。