「ねえ、何でウナギなの」
「牛丼屋に旗が立ってたでしょう」
僕はやっぱりそうかと思った。
「でも、せっかくウナギ食べるんなら、
うなぎ屋に行こうよ」
「それもそうだね」
エリコとぼくは橋のたもとで
傘を持ったまま立ち止まっている。
「霞んじゃってよく見えない」
エリコがつぶやく。
「行こうか」
ぼくはそう言って橋を渡り始めた。
「いいとこ知ってるの」
「まあね」
エリコがぼくの後をついてくる。
エリコのペースに合わせて、ゆっくりと橋を渡った。
橋を渡り終えて緩い下り坂を降りていくと、
一本下流の橋から伸びている大通りにぶつかる。
その少し手前にうなぎ屋があった。
昔ながらの木造の建物で外見は
決してきれいとは言えないけれど、
その佇まいからは江戸の風情を感じることができる。
「レトロだね。いい感じじゃないの」
「住吉大社の近くのうなぎ屋知ってる」
「知ってる。チンチン電車の待合所の近くの
うなぎ屋でしょう」
「あそこはもっとレトロだよ。あそこも好き」