「あたしも病気になればよかったかな」

土産の餃子をつまみながらエリコが言う。

「丈夫にできてるんだね」

「そうかもね。たまにお腹こわすくらい」

そう言いながらエリコは缶ビールを飲みほした。

「食べ過ぎに、飲み過ぎだね」

「やっぱりヒロさんの焼いた餃子が一番おいしい。

あたしが焼くとこんなにうまく焼けないの」

「説明書通りに焼いているだけだよ」

「用事はすんだの」

「もう少しかな。買い物とかもしたいし、

しばらくいてもいいでしょう」

「かまわないよ」

少し前までは普通の日常だったのに、

今はこんな会話が懐かしく感じられる。

「お酒飲んじゃったの。ジンと・・・」

「ベルモット」

「そう、そのベルモットとジン。

キッチンに空きビンが置いてあった」

気づかれてしまったようだ。

エリコもちょっとは変わったのかな。

多分以前なら気づかなかったような気がする。

「最近考えることが多くてね」

エリコが僕のほうをじっと見ている。

そしてニヤリと笑う。

少し目が泳いでいるような気がした。

そんなに酔っているとも思えない。

僕は自分の部屋に行って、

新しく買ったジンとベルモットを持ってきた。

「片方はビンが違うね」

ジンは前と同じボンベイサファイアだけれど、

ベルモットはフランス産の

ノイリープラットを買ってきた。

もともとドライ・ベルモットはフランスが発祥らしい。

「ネットで調べたらこれがいいらしいんだ」

僕はグラスと氷を用意し、

グラスいっぱいに氷を入れた後

ジンとベルモットを注いだ。

そして「飲むよね」とエリコに言う。

エリコはうれしそうにうなずいた。