「エディット・ピアフだね」
「わかるの」
「わかる」
「好き」
「好き」
「めずらしいね」
「そうかな」
「ジャック・ブレルは」
「聞いたことあるけど」
「そう」
「シャンソンはそんなに詳しくないよ。
ブリジット・フォンテーヌとかよく聴いてたけど」
「ラジオのようにとか」
「彼女はシャンソンじゃないよね」
「アーティスト」
「ジョルジュ・ムスタキはシャンソン歌手」
「シンガーソングライターかな」
「じゃあ、フランソワーズ・アルディと同じだ」
「彼女はアイドル。シルビー・バルタンとか、
フランス・ギャルとか。
でも彼女はソルボンヌにもいたらしいの」
「インテリなんだ」
「シャンソン詳しいの」
「あたしもあまり詳しくないの、本当は」
「そうか」
「今日はクリーム色だね」
「帽子。そうだね、ずいぶん明るくなってきたし」
「メガネも明るい感じがする」
「本当。でもあたし、メガネはこれしか持ってないのよ」
「目の錯覚かな」
「そうかも」
「あたし普段はメガネかけないし」
「そうなんだ」
「草木染のセーター気に入った」
「微妙な色の」
「それがいいのよ」
「失敗作じゃなかった」
「そうなんだけどね」
「実はあのセーター、人にあげちゃったんだ。ちょっときつくて」
「たしかに、ザックリしてたほうがいいよね」
「誰にあげたの」
「それは内緒」
「そうなんだ」
「なにが」
「まあいいわ」
「お茶もう一杯どう」
「そろそろ帰るよ」
「残念」
「また来る」