残業を終えて会社を出ると

 

外に昨日の女の子が立っている。

 

会社のことは教えなかったはずだと思いつつ

 

僕は女の子を見た。

 

「こんばんは。どうしたの」

 

女の子は何か言いたそうな顔をしながら僕を見ている。

 

「川の向こうの人は見つかった」

 

女の子が僕の言葉にうなずいた。

 

「さっき、女の人が走って出て行った」

 

「追いかけなくていいの」

 

「いいのさ」僕は微笑んでそう言う。

 

「悪いことしちゃった」

 

「そんなことないよ」

 

「ウチもねえちゃん怒らしてしもた」

 

「ツリーの前で会う約束してて」

 

女の子は木村さんの妹さんだった。

 

「ダメね、ずいぶん会ってなかったから。年も離れているし」

 

「川を見ていたんですよ。向こう岸から」

 

「川の向こうに彦星がいるって」

 

「あたし男なの」

 

木村さんはそう言って笑った。

 

「お兄さんの織姫は近くに居るんやな」

 

別れ際に女の子はそう言って木村さんと橋のほうに歩いていく。