「何かお困りですか」
どこかから声が聞こえる。
といってもあたりには誰も見えない。
僕は少し先の路地をのぞいてみる。
こんな細い路地なのにアーケードなんだ。
視線の先、上のほうに半円形の看板が見えた。
文字が書いてあるけれどよく見えない。
判読不能。最後に書いてある文字は「商店街」なのだろうか。
そして僕は急に振り返る。
ぞろぞろと人が通り過ぎ、通りの上にアーケードが。
ちょっと待て。
僕はアーケードの商店街を歩いていたのか。
そんなはずはないんだ。
僕の家の近くにアーケードの商店街なんてない。
アーケードの商店街は駅の反対側。
「お困りですか」
また声が聞こえた。
僕はさっきのぞいた路地を奥のほうに歩いていく。
先のほうは薄暗くてよく見えない。
ぼんやりと人影が見える。女の子のようだ。
あの女の子が声の主なのか。
ずっと進んでいくとあたりが急に明るくなり、まぶしくて何も見えない。
気がつくと見慣れた風景がそこにあった。
ただし僕は、完全に自分の家を通り過ぎていた。
「大丈夫ですか」
たしかに女の子の声だ。
僕は声が聞こえた家の前に立つ。
ブロック塀とコンクリートの門柱。
そして細い鉄パイプの門扉。
かなり古いデザイン。
というかこの家自体が古く、今は空き家になっているはず。
僕はここに住んでいたおばあさんを思い出した。