坂を下って、また上がるとずっと遠くに町が見えた。

ぼくと女の子は顔を見合わせたあと、

また歩きはじめた。

町から少しはなれたところに、

一軒だけハンバーガー屋が建っている。

ジャリ敷きの駐車場に何台か車が駐車していた。

ぼくと女の子は店の中に入っていく。

店の中には誰もいないような感じだった。

ぼくたちは立ち止まって店の様子をうかがっている。

車はあるのにお客さんはいないようだ。

「誰もいないのかな」

ぼくが小さな声でつぶやく。

店の奥のほうからおばさんが出てきた。

そしてぼくたちに

「いらっしゃい」と愛想なく声をかけ

「どこでもどうぞ」と言った。

そしてそのまま、ぼくたちをじっと見ている。

ぼくと女の子は窓際の奥に向かい合ってすわった。

注文を済ませたあと、

ぼくと女の子は無言のままじっと外の様子をうかがっている。

ガラス窓に女の子の横顔が映っていた。

彼女はずっとぼうしをかぶったまま。

スローモーションのように時が流れていく。

止まってしまったんじゃないかと思えるくらいだ。

窓に映る女の子の表情はずっと変わらない。

窓の外の様子も変わらない。

車は一台も通らない。

気配さえない。

気配があるとすれば、動物。

「たぬきか何か」

突然女の子がぼくに言う。

「うん多分」

ぼくはそう答えたけど、

何も言ってないのにどうしてわかったんだろう。

「おそいね」

女の子がつぶやく。

なんとなく予想はしていたけど、

注文したハンバーガーはまだぼくたちの前に届いていない。

コーラぐらい持ってきてくれてもいいのに。

ぼくはあまり意味のないため息をつく。

そして後ろを振り返って、

店のカウンターのほうを見ている。

ちゃんとやっているのかな。

やけにひっそりしている。

店の中に流れているカントリー・ミュージック。

陽気な歌声が店内にひびいているけど、

この店には似合わない。

ぼくが視線を戻すと、

テーブルの上にトレーがふたつ置いてある。

トレーにはハンバーガーとポテトにコーラがのっていた。