「彼が浮気をしていないか調べてください」

 

あの時の真紀という女の子の目は自分に焦点が合っていた。

 

タクヤは物陰からあるカップルの様子を窺いながら考えている。

 

美佐さんは彼女が言葉を発した瞬間、渋い表情でタクヤを見ていた。

 

それでも依頼を受けるようタクヤに目で訴えている。

 

夢見が言っていたことは多分正解だろう。

 

彼女はあの男の彼女ではない。

 

男は毎日のように違う女の子と会っている。

 

それも単にご飯を食べたり、酒を飲んだりだけしているわけではない。

 

この女の子も犠牲者なんだろうか。

 

タクヤは楽しそうに笑っている女の子を見ている。

 

次の瞬間、タクヤが見なれた服装の女の子が二人の前に現れた。

 

「やっぱり浮気してたんだ」

 

カップルは何ものが現れたのかとしばし呆然としている。

 

「ちゃんと探偵に調べてもらったんだから」

 

「証拠は挙がっているんだ、言い逃れは出来ないよ」

 

真紀の声があたりに響きわたる。

 

タクヤの知っているあのか細い声ではない。

 

「のんのんびより」

 

「知らない?マンガの」

 

男は言いわけともいえないようなことを女の子に言っている。

 

それとも真紀に対して言ったのだろうか。

 

タクヤはまだ何の報告も真紀にしていない。

 

「あたしはれんちょんではない」

 

真紀が声を荒げた。

 

「違うよ、僕が言っているのは三千院ナギ」

 

「それじゃ、マンガが違うじゃない」

 

怯えて二人の様子を見ていた女の子が二人から離れて走り去っていく。

 

真紀も逆の方向に走り出した。