「ねえ何にします」
店の中にはウインナワルツが流れていた。
「メニューはどこにあるのかな」
「きっと持ってくるんですよ」
女の子はにこやかにそう言う。
木々に囲まれた店が見えたのは
歩きはじめてどのくらいたった頃だろうか
僕には気の遠くなるような時間に思えた。
やっぱり車にすればよかったんだ。誰に見られるわけでもない。
僕は帰りのことを考えると憂鬱になった。
ウエイターがグラスに入った水を持ってくる。
きちんとした身なりの初老の男性だ。
「あの、メニューは」僕がウエイターにきいた。
「当店はメニューはありません。お任せになります」
へえ、そうなんだ。
まわりを見てもお客は僕たちだけ。
評判の店なら少しぐらい高くても、いくらわかりにくくても
この時間ならもっと客がいていいはず。
そうだよ、いったいいくら払えばいいのか。
僕は女の子の顔を見た。もちろん僕のおごりなのだろう。
この前のハンバーガー屋のようなわけにはいかない気がした。
ウエイターが前菜のようなものを持ってきた。
もしかしてコースなの。
ウインナワルツがやけに不気味に聞こえる。