アサちゃんは仕事に行くと言って出かけ、僕は部屋の中に放置された。

 

どうしてこんなことになったのか。

 

明日アサちゃんが僕の部屋に荷物を取りに行くという。

 

まあ僕には荷物らしい荷物もなく、この部屋には僕のものを置く場所もなさそうだけど。

 

お互いのプライベート空間がなさそうなこの部屋をどうやってルームシェアするのだろう。

 

僕には意味が分からなかった。

 

家賃がないのは助かるけれど、

 

誰が見ても僕がアサちゃんの部屋にころがりこんできたとしか思えないだろう。

 

「まあいいか」ぼくは夕焼けの空を見ながらそうつぶやく。

 

そういえば昼にラーメン食べただけなんだよなあ。

 

僕はそう思って冷蔵庫をのぞいてみた。飲み物ぐらいしか入っていない。

 

それにこの中のものは僕のものじゃないよね。

 

ルームシェアといってもそれなりのルールがあるはずだ。よくわからないけれど。

 

コンビニでも行こうか。そう思ったとき、この部屋のカギを預かっていないことに気づく。

 

どこかにあるのかなあ。少し部屋を捜したけれど見つからなかった。

 

開けたまま出かけるのもなあ。アサちゃんはいつ帰ってくるのだろう。

 

せんべいやスナック菓子も見当たらなかった。

 

「つかれたなあ」外はすっかり暗くなっている。階段を上がってくる音が聞こえた。

 

多分アサちゃんではない。隣の住人か。階段を上がって一番手前がこの部屋。

 

その奥にふたつ部屋がある。

 

「今日は仕事休み」

 

突然ドアが開いて、作業服の女性が中に入ってくる。

 

「あなた誰」

 

その女性は少し驚いたように僕を見ている。

 

僕は何も答えられずにぼんやりとその女性の顔を見ていた。

 

則巻アラレが大人になって少しきれいになるとこんな感じなのかな。

 

体形は細身でスラリとしている。

 

「親戚の人」

 

「そうなんです」

 

「あの、ちょっと外に出たいんですが、お留守番お願いできませんか」

 

「何で」

 

「お腹空いちゃって」

 

「それならこれ食べなよ」

 

女性は手に持っていたリュックからコッペパンを取り出して、僕に渡してくれた。

 

そしてスタスタと冷蔵庫のほうに歩いて行って缶ビールを二本持ってきた。

 

「いいんですか」

 

「全然かまわないよ」

 

そう言って美味そうにビールを飲みはじめる。

 

「あたしヨーコ。あなたは」

 

「シュンです」

 

「別にカギ開けたまま出て行ってもかまわないんだけどね」

 

ヨーコさんはそう言ってニッコリと笑った。