「きれいに咲いてるね」

 

ヒロとカスミは一月に訪れた神社の桜をながめている。

 

カスミは背中にギターケースを背負っていた。

 

あの時よりよりも華やかに見えるのは桜のせいだけではないだろう。

 

ヒロはそう思いながらカスミを見ている。

 

「エミさんは今日来るの」

 

「もう電車に乗ってるころかな」

 

「ヒロ君はこれから帰るんでしょう」

 

「リハくらいまではいたかったけどね」

 

「リハは昨日したじゃない」

 

「まあね」

 

ヒロとカスミはこっちに着いてすぐに、以前二人で訪れた店に入った。

 

店の中では千草が二人を待っていた。

 

「マスター、紹介します妹のカスミです」

 

「カスミのカレシのヒロ君」

 

マスターは少し驚いた様子で二人を見ている。

 

「よろしくお願いします」

 

そう言ってカスミが頭を下げた。

 

「とりあえず何曲かやってもらえるかな」

 

「わかりました」

 

カスミは笑顔で答えるとケースから

 

ギターを出してチューニングをはじめる。

 

「ヒロ君」千草がヒロを呼んだ。

 

「エミさんのほうは大丈夫」

 

「明日の昼頃には着く予定です。カスミが迎えに行くので」

 

「ヒロ君は」

 

「僕は明日の朝帰ります。お店のほうがあるので」

 

「お姉さんのほうは」

 

「マスターにはカスミと一緒にランチしようって言ってある」

 

千草は少し不安そうな顔をする。

 

「大丈夫ですよ。カスミがうまくやってくれます」

 

カスミが歌いはじめた。

 

ヒロが初めてカスミの歌をきいたときに歌っていた曲。

 

まだ声が安定してないかな。久しぶりだし。

 

そう思いながらヒロはカスミの歌をきいている。

 

マスターはずっと腕組みをしたままカスミを見ていた。

 

「いい声しているし、曲もいい」

 

マスターはヒロと千草のいる方に近づいてきてそう言った。

 

「まだ声が出ていませんね」

 

「そうかい。オレはいいと思う。ストリートで鍛えていただけある」