マスターのところにカップルが訪ねてきている。

 

そのカップルはカウンターでマスターと静かに話をしていた。

 

常連のコウちゃんとボックス席にいるカオルは

 

その様子をうかがっている。

 

「失礼します」ミキもボックス席についた。

 

「内緒の話でもしてるんですかね」

 

「はじめての客だなあ。そういえばこの前もカップル来てたよね」

 

ふだんはカウンターで飲んでいる

 

コウちゃんは少し落ち着かない様子。

 

「こんなこと滅多にないんだから、よそ見はしない」

 

「カオルちゃんだってチラチラ見てるじゃない」

 

「コウちゃんは両側に女の子をはべらせたりする店には

 

行かないんですか」

 

ミキはそう言って、コウちゃんに体を摺り寄せてみる。

 

「からかわないでよ。今日は特別高くなるなんてことないよね」

 

「わからないよ」

 

カオルとミキが微笑みながら目を合わせる。

 

「余計なことしてるのかな」

 

帰りの電車の時間待ちをしているコーヒーショップで

 

ヒロがカスミに言う。

 

電車の時間までは約一時間。

 

帰りの切符を先に買っておけばよかったのだけれど、

 

時間が読めなかったからなあ。

 

「たしかに、微妙だよね。でも、ヒロ君が気になってるなら」

 

「サキがさあ」ヒロはこう言って少し間を置いた。

 

「言うんだよ。ママにはナイショだよっていろいろ」

 

「パパの話」

 

「楽しそうにね」

 

「ケンタは言わないの」

 

「あいつはね」

 

「だからサキもケンタがいるときは言わないんだ」

 

「子どもってわからないようでわかっているんだね」

 

そう言ってカスミは抹茶ラテを一口飲んだ。

 

「あのカップル海外に行っていたらしいよ」

 

ミキちゃんが小声で話す。

 

「そういえば、いつ戻ってきたのかマスターがきいてたよ」

 

コウちゃんがつづける。

 

「ねえ、それよりこの前のカップルの話してよ」

 

カオルはそう言って、コウちゃんに微笑みかける。

 

「カオルさんを訪ねてきたんですよね」

 

ミキもそう言って、コウちゃんの目を見る。

 

「俺だって詳しいことはわからないよ。

 

男のほうはカオルちゃんを知ってるみたいだったけど。

 

こっちに住んでるんじゃなくて、

 

用事があって出てきたみたいだったよ」

 

「女のほうは」

 

「若い感じがした」

 

「それだけ」

 

「この店にあまり興味はなさそうだったね。

 

イヤイヤついてきた感じかな」

 

「そうなんだ」