あの人は本当に夢見さんなのだろうか。

隆は考えていた。

そうなんだ。

誰も夢見さんの遺体を見たわけじゃない。

牧師さんからもそう聞いている。

どうして夢見さんは海の中に消えたのか。

牧師さんは事故だと言っていたけれど、

本当のことを隠しているのかもしれない。

あの人影が消えてしまった場所。

だいたいの見当はついた。

でも、そこは隆が行けるような場所ではなかった。

高級クラブのホステスか。

ただ確かめるだけ。

それだけでいいんだけれど、その方法が見つからない。

ビルの影から様子をうかがっていた隆の肩を誰かがたたいた。

「何やってんのよ」驚いて隆が振り返る。

「なんだ薫ちゃんか。心臓が止まるかと思った」

薫と隆は近くのコーヒーショップに入った。

「恋する目をしてたよ」そう言いながら薫は隆の顔を見て笑っている。

「別に、そんなんじゃないよ」

「本当かな」

「でもあの店はやめた方がいいんじゃない」

「そう思う」

「そう思う」

安堵と落胆が混じり合った顔ってこんな顔なんだ。

薫はうつむきかけた隆の顔を見てそう思った。

「あいつはどうしてる」

「ヒロさん」

「元気だよ。思ってたよりずっと。

もしかしたらその辺でギター抱えて

歌いはじめるかもしれない」

「本当に。たしかにあいつは学生の頃そんなことやってたけど」

「聞いたことあるの」

「ないよ、話だけ。

もう一人相棒がいてさ、二人でやってたんだ。

歌ってたのは相棒のほうで、

あいつはギター弾いてただけだったみたい」

「その相棒の人は今何やってるの」

「わからない。そいつとは付き合いなかったから」


世利人史 街色の海と海色の街 Ⅰ(その7)



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