【大吉祥天女増長財物品第十七】
その時、吉祥天は再び釈迦に申し上げます。「世尊よ、北方薜室羅末拏天王(毘沙門天)の居城を『有財』と申します。その城の近くに『妙華福光』という名の庭園があります。私はその庭園に居住しております。
倉庫が溢れんほどの五穀豊穣を願い求める者がいれば、信心を起こして一室を浄め、その室内で発心し、私のために毎日三反、『瑠璃金山宝華光如来』と『金光明最勝王経』の名号を唱えて敬うべきであります。(中略)私・吉祥天はその様子を見知した時、すぐに慈悲の心によってその宅中の財産や穀物を増大させましょう。
次のような呪文によって私を請い招き、まず仏名、次に菩薩の名を唱えて心より敬い礼拝すべきです。『一切の三世諸仏に帰依いたします。宝髻仏に帰依いたします。無垢光明宝幢仏に帰依いたします。(中略)善安菩薩に帰依いたします.』
このように仏と菩薩を礼拝しおわって、次のように呪文を唱えて私・吉祥天を求め招きます。その呪文の力によって願いはすべて成就できるでしょう。
『南謨室唎莫訶天女。怛姪他。(下略)』
世尊よ、このような呪文を信仰して唱え、請い招く者の所に私は来至して、その願いを叶えましょう。(中略)この呪文を信仰し、読み唱えようとする者は、七日七夜の間、八斎戒(殺さない・盗まない・淫らな行いをしない・嘘をつかない・酒を飲まない・午後食を摂らない・歌舞や化粧をしない・上等な寝具に寝そべらない)を守るべきです。朝にはまず歯を磨いて口をすすぎ、夕方には香と花を供えて一切の諸仏に供養して自らの罪を述べ、自身とあらゆる生ける者たちのために功徳を廻らし、仏心を発して願いを速やかに叶えるようにすべきです。(中略)私は生涯その人のもとに寄り添って擁護し、困窮することのないよう、願いを叶えます。また時に応じて不足するものを与えましょう。
物惜しみして自分のためだけに行動するのではなく、常にこの経を読み、絶え間なく供養を続けるべきです。その福徳を一切の世界の生ける者たちに施し、共に悟りに向かうよう志し、生死に流転する迷いの世界を離れて、速やかに悟りの境地に達することを願うのです。」
その時、釈迦が讃えて言われます。「よろしい。吉祥天よ。あなたは今述べたようにこの経をよく布教し、不可思議なるすばらしい方法によって自らと他者の双方を高め利益をもたらした。」
爾の時、大吉祥天女、復た仏に白して言く、「世尊、北方薜室羅末拏天王の城を有財と名く。城を去ること遠からずして園あり、名けて妙華福光と曰う。中に勝殿あり、七宝の所成なり。世尊、我常に彼に住す。若し復た人ありて、五穀日日に増多し、倉庫盈溢せんと欲求する者あらば、応当に敬信の心を発起して、一室を浄治し、(中略)浄室の内に入り、心を発し、我がために、毎日三時に彼の仏名、及び此の経の名号を称して、礼敬を申ぶべし(中略)時に吉祥天女、是の事を知り已り、即ち愍念を生じ、其の宅中の財穀をして増長せしめんとす。
即ち当に呪を誦して我を請招し、先ず仏名、及び菩薩の名字を称し一心に敬礼すべし。『南謨一切三世諸仏。南謨宝髻仏。南謨無垢光明宝幢仏。南謨金幢仏。南謨百金光蔵仏。南謨金蓋宝積仏。南謨金花光幢仏。南謨大燈光仏。南謨大宝幢仏。南謨東方不動仏。南謨南方宝幢仏。南謨西方無量寿仏。南謨北方天鼓音仏。南謨妙幢菩薩。南謨金光菩薩。南謨金蔵菩薩。南謨常啼菩薩。南謨法上菩薩。南謨善安菩薩。』
是の如く仏菩薩を敬礼し已り、次に当に呪を誦して、我が大吉祥天女を
請召すべし。此の呪の力に
由りて、求むる所の事、皆成就することを得ん。即ち呪を説きて曰く、『
南謨室唎莫訶天女。
怛姪他。(下略)』
世尊、若し人あり、是の如き神呪を誦持し、我を請召せん時、我請を聞き已り、即ち其の所に至り、願をして遂ぐるを得しめん。(中略)若し呪を受持し読誦するあらん者は、応に七日七夜、八支戒を受くべし。晨朝の時に於て、先ず歯木を嚼み、浄く澡漱し已り、晡後に及びて、香花もて一切諸仏に供養し、自ら其の罪を陳べ、当に己が身、及び諸の含識のために、廻向発願し、希求する所をして速やかに成就することを得せしめよ。(中略)我、当に身を終ゆるまで、常に此れに住して、是の人を擁護し、闕乏なかれしめん、希求する所に随いて、悉く皆意に称わん。亦た当に時時に貧乏を給済すべし。応に慳惜にして独り己が身のためにすべからず。常に是の経を読みて、供養して絶えざらしめよ。当に此の福を以て普く一切に施し、菩提に廻向し、願わくば生死を出でて速やかに解脱を得べし。」
爾の時、世尊、讃じて言わく、「善哉、吉祥天女、汝能く是の如く此の経を流布し、不可思議に、自他倶に益す。
(次回「堅牢地神品第十八」へ続く)