()(てん)(のう)()(こく)(ほん)第十二の1

 釈迦は四天王が「金光明経」を敬い供養し、あらゆる()(きょう)の者を擁護することをお聞きになり讃えておっしゃった。「大変よろしい。四天王よ。(中略)あなた方が長い迷いの世において、あらゆる衆生に常に()(やく)を与え、大いなる慈悲の心によって安らぎを与えることを願っている。このような(しゅ)(しょう)発願(ほつがん)の因縁により、あなた方四天王にすぐれた(むく)いを授けよう。もしこの「金光明経」を敬い供養する国王があれば、あなた方はその国王の治める国を守護し平和をもたらすように勤めなさい。」(中略)

 

 四天王は釈迦に申し上げます。「世尊よ、この『金光明経』が()(らい)()において国内の街や集落、山林や広野など()()(うら)(うら)流布(るふ)する時、その国の王がこの経典を心から聴受し、讃え、経を護持する僧俗の男女が不自由ないよう援助を行い、心から擁護するならば、ごの善業(ぜんごう)の因縁によって私どもはその王と国内の人々を守り、安穏を与え、憂いや苦しみを除き、寿命を増して国王の()(とく)()(そく)させましょう。」(中略)

 

 四天王は釈迦に申し上げます。「世尊よ、国王は気ままに心を乱すことなく、まさに敬いの心をもって誠心誠意、丁寧にこの経を聴聞するでありましょう。この経を聴こうとする時には(中略)この上なく高価な香を焚き、さまざまな音楽を奏することでありましょう。」

 

 四天王は釈迦に申し上げます。(中略)「世尊よ、もし国王がこの経を求め、経の教えを敬い聴き、また経を護持する僧俗の男女をも敬い、供養し、尊重し、讃える時、その王はまた私ども四天王を喜ばせるために、この経の説法の座に近い一角の地に香水を注ぎ、美しい花々を()いて四天王の座を(しつら)えるでしょう。私どももまたその国王とともに説法を聴きましょう。(中略)この経の説法者を(しょう)(せい)して(ほう)()に昇らせる時、国王は私どものためにあらゆる名香を焚いてこの経を供養するでしょう。その香の煙は一念のうちに()(くう)に昇り、私ども天の神々の宮殿にいたり、空中で(こう)(ごう)となり、馥郁(ふくいく)とした香りに満ち、光明がすべての天の宮殿に行きわたって照らすことでしょう。」

 

 釈迦は四天王に告げます。「香の光明が天の宮殿にいたり、香蓋となって光を放つだけではない。(中略)一念のうちにあらゆる(ぶっ)(こく)()に行きわたり、同様に香蓋となって金色の光によって照らすであろう。(中略)それぞれの仏国土の諸仏はこの様子を観察して()()(どう)(おん)に説法者を讃えて言われるだろう。『大変よろしい、よくこのような奥深く妙なる経典を流布いたした。あなたは限りなく大きな福聚(ふくじゅ)(じょう)(じゅ)したのだ』と。」

 

 

 爾( そ)の時世尊、四天王の金光明経を恭敬し、供養し、及び()く諸の()(きょう)(しゃ)を擁護することを聞きたまい、(さん)じて言わく、 「善哉(よいかな)、善哉。汝等四王(中略)汝等(じょう)()に、諸の衆生に於て常に()(やく)を思い、(だい)()(しん)を起し、安楽を与えんことを願う。是の因縁を以て、能く汝等をして現に(しょう)(ほう)を受けしむ。若し(にん)(おう)ありて、此の金光明最勝の経典を()(ぎょう)し供養せば、汝等(まさ)に勤めて守護を加え安穏を得しむべし。」(中略)
 
 爾の時に四天王、(中略)仏に(もう)して(もうさ)く、「()(そん)、此の金光明最勝経王の、未来世に於て、()し国土ありて(じょう)(おう)(じゅ)(らく)(せん)(りん)(こう)()(しょ)()(ところ)(したが)流布(るふ)する時、若し彼の国王、此の経典に於て()(しん)に聴受し、(しょう)(たん)し、供養し、(ならび)()た是の経を受持する()()の衆に()(きゅう)して、(じん)(しん)に擁護し衰悩を離れしめんに、この因縁を以て、我彼の王、及び(しょ)(にん)(しゅ)を護り、皆安穏にして()()(おん)()し、寿命を増益(ぞうやく)し、()(とく)()(そく)せしめん。」(中略)
 
 爾の時四天王、仏に白して言く、(中略)「世尊、是の如く人王は放逸(ほういつ)にして(こころ)散乱(さんらん)せしむべからず。()(じょう)(おん)(じゅう)に是の如き最勝の(きょう)(おう)を聴受すべし。之を聴かんと欲する時、(中略)()()の香を焼き、諸の音楽を奏すべし。」(中略)
 
 爾の時四天王、仏に白して言く、(中略)「世尊、若し人王ありて能く是の如きを作し、正法を恭敬して此の経王を聴き、并びに()(しゅ)()(きょう)の人に於て、恭敬し、供養し、(そん)(じゅう)し、讃歎(さんだん)せん時、彼の人王我等に歓喜を生ぜしめんがための故に、当に一辺に在りて法座に近く、香水を地に(そそ)ぎ、(もろもろ)(みょう)()を散じ、(しょ)(しょ)を安置し四王の座を設くべし。我彼の王と共に正法を聴かん。(中略)世尊、時に彼の人王、説法者を()いて座に昇らしむる時、便ち我等のために衆の名香を焼きて是の経を供養せん。世尊、時に彼の(こう)(えん)(いち)(ねん)(あいだ)に於て虚空に上昇し、即ち我等諸天の宮殿に至り、虚空の中に於て変じて(こう)(ごう)と成らん。(中略)世尊、是の如き等の衆、自らの宮殿(ぐうでん)に於て、彼の(いち)(せつ)()の頃に変じて香蓋と成るを見、香の(ふん)(ぷく)たるを聞き、色の光明(あまね)く一切諸天の神宮に至るを()ん。」
 
 仏、四天王に告げたまわく、「是れ香の光明但だに此の宮殿に至り、変じて香蓋と成りて大光明を放つのみに非ず、(中略)一念の頃に於て、亦た(じっ)(ぽう)()(りょう)()(へん)(ごう)()(しゃ)(とう)の百千万億の諸仏の国土に遍く、諸仏の上の虚空の中に於て、変じて香蓋となり、金色にして普く照らさんこと()()(かく)の如し。(中略)彼の諸の世尊、(ことごと)く共に観察(かんざつ)し、()()(どう)(おん)(ほっ)()を讃じて曰わん、『善哉、善哉。(なんじ)(だい)(じょう)()、能く是の如き(じん)(じん)()(みょう)の経典を流布す。則ち無量無辺不可思議の福徳(ふくとく)(じゅ)を成就すと()す』と。」

 

(次回「四天王護国品第十二の2」へ続く)