クルマの話
僕のクルマ好きは父親の血らしい。
僕の父親は、まだ運転免許証自体が珍しかった昔、いち早く運転免許証を取得してダットサンを買った。
生意気なマイカー持ちの若造となった父親は、会社で唯一のマイカー所持者となり、不本意ながら社長のおでかけの足として運転手代わりに使われ、そのこと自体は父親にとって良いこと(つまりは若くして社長のお気に入りになった)だったのだけど、後々それが巡り巡って社内の不興を買うことになり転職に至る。
このあたりの気の短さというのは、一見して正反対の性格のような僕と父親(僕は容姿も性格も完全な母親似だ)とに共通して流れる気質である。
僕が最初に乗ったクルマは18歳で手に入れた通称ハチロク、トヨタ・スプリンター・トレノ。
4気筒twincam16バルブ1600ccで、とにかくよく走りよく曲がるクルマだった。
あの頃は、女の子にモテようと思えば必ず高い身長と高い学歴と高い収入(社会人は)と、カッコ良いクルマが求められた時代で、クルマのグレードというのは自分がどの階級に属しているのか、あるいはどういう趣味趣向を持った人間なのかをあらわす記号みたいなものだった。
時代は華美で豪華でスノッブであることが良しとされていたのだけど、僕はわりにストイックにクルマに接していたと思う。
当然、マニュアルシフトだったし、運転しているときには音楽は聴かない。エンジン音とかタイヤやボディが発する音に耳を澄ませる。
基本的には一人で運転するのが好きで、あまり積極的には他人を助手席には乗せない。
M君は大学時代、毎日のように違う女の子をクルマに乗せてたよね~と甚だ不本意なことを言う同級生がいるけれど、おそらく彼女の見間違えだと思う。たぶん。
今も続く、小さなクルマ好きというのは、この1台目のハチロクで確かに培われた。
その後、社会人1年目に神戸で開かれた輸入車ショーでランチア・デルタ・インテグラーレを間近で見て感動し、絶対これ買うと心に決めた。
当時、ローンでクルマ買うという発想もなく(今も無いけど)、デルタ代金500万円を貯めようとして頑張っていたのだけど、不幸なタイミングで結婚することが決まり、僕のデルタはホンダ・シビック+結婚資金に変身してしまった。
僕の人生がほのかに狂い始めた不吉な予兆だったのかもしれない。
シビックで軽井沢に向かう碓氷峠で軽自動車(たぶんワゴンR)にぶち抜かれ、ぶち切れた僕はシビックを売り払ってアルファロメオに乗り換えた。
最初からデルタ・インテグラーレに乗っていれば碓氷峠であの屈辱を味あわずに済んだのにと、今でも思う。
まあその後は、歳なりの落ち着きとか、もうマニュアル車はやめてくれという家人の願いとか、実用性とか考えて今のクルマになったのだけど(アルファ156→BMW X3→5シリーズ)、今でも本当はハチロクみたいな小さくてキビキビ走って、あくまで僕個人のものとして一緒に過ごせるキュートでスパルタンなクルマに乗りたい。
小さいけどキビキビしてて、キュートでスパルタンって実は僕の女の子の好きなタイプだったりして。
僕にとってクルマと女の子は、僕の歴史的に見ても潜在意識的に見てもどちらも僕には必要不可欠なもので、この煩瑣な人生において僕が唯一幸せを感じることができるものかもしれない。
まあどちらもある程度の期間で乗り代わっていくのだけど。
今のクルマもおねいさんも少し対話が足りないかも。
…と、なにかについて書いてみたけど、なかなか難しいですね。気の利いたこと書けないや。