読みやすい英文を書くためには、3C(Clear 明確、Correct 正しい、Concise 簡潔)であることが重要であるという話をした。
その為には様々なことに注意しなければならないのだが、その中でも特に、私は、「名詞の扱い方」の理解が、表現や文法以上に重要だと思っている。
ここでは、その「名詞の扱い方」を適切に行うために抑えるべきポイントは以下のとおりである。
(1)名詞の可算と不加算はどのように判断するか
(2)定冠詞(the)をつけるかどうかはどうやって判断するか
(3)不定冠詞+名詞(単数形)の意味
(4)無冠詞+名詞(複数形)の意味
「名詞の扱い方」で厄介なのは、それが正解なのか間違いなのか、実は本人にしか分からないことだ。しかし、その英文を書いた人の英語力が少し怪しいという判断を下す根拠となる。
入試の和文英訳問題のように、一行だけの英文であるならば、「名詞の扱い方」の理解が不十分でも、それは表立った問題にはならない。
しかし、論文や報告書のようにある程度長い英文になってくると、意識していないと意味の整合性が全体的におかしくなってくる。
ここでは、どの程度の解釈の揺らぎが発生するのかを実例を挙げて紹介してみたい。
(1)A machine uses power to generate an intended action.
この英文では、名詞(単数形)が不定冠詞(a, an)を伴って出現している。
そこで、先に説明した通り、「世の中にはmachineと呼ばれるものが無数に存在する、今、その一つについて言及して、それは、動力を用いて意図した動作を発生させる。」という意味であると考える。
リンク:3C、不定冠詞(a, an)+名詞(単数形)の深い意味
これを前提としたならば、以下のような解釈を思いつく。
解釈1:一般に機械というものは、動力を用いて意図した動作を発生させる。
解釈2:ある一つの種類の機械は動力を用いて意図した動作を発生させる。
解釈3:ある一つの機械は動力を用いて意図した動作を発生させる。
これは、あくまで私個人の意見ではあるが、解釈2と解釈3には違和感をおぼえる。
なぜかというと、「動力を用いて意図した動作を発生させる」というのは、私の理解では、機械の定義そのものだからだ。
だから、解釈2や解釈3のように、ある一つのなどと敢えて言う必要はどこにあるのだろうか?という疑問を抱く。
もちろん、この一文だけならば、どの解釈が正しいかは分からない。もし、これが長い英文の一部であるならば、その後の英文でつじつまが合わないようだと、「おやっ?」となっていく。
(2)Machines use power to generate an intended action.
この英文では、名詞(複数形)が無冠詞で用いられている。
これも、先に説明した通り、「世の中にはmachineと呼ばれるものが無数に存在する、今、その複数について言及して、それは、動力を用いて意図した動作を発生させる。」という意味だと考える。
これだけなら、だいたい以下のような解釈が思い浮かぶ。
解釈1:一般に機械というものは、その殆どが、動力を用いて意図した動作を発生させる。
解釈2:いくつかの機械は動力を用いて意図した動作を発生させる。
解釈3:いくつかの種類の機械は動力を用いて意図した動作を発生させる。
実は、私はこの解釈全てに違和感をおぼえる。
解釈1について、先にも述べたが、「動力を用いて意図した動作を発生する」というのは、私からすると、機械の定義そのものになる。
無冠詞+名詞(複数形)だと、「そのほとんどが」という意味になり、動力を用いて意図した動作を発生させない機械も若干存在していることになる。私は、機械というモノは一つ残らず「動力を用いて意図した動作を発生する」ものだと考えている。
しかし、人によってはこれが正解であるかもしれない。これが解釈の揺らぎである。
解釈2、解釈3は、私の機械の理解とはかなりかけ離れている。その後の文脈でそれなりに説明してもらわなければ、私のなかではこの解釈は成り立たない。
(3)The machine uses power to generate an intended action.
この英文では、名詞(単数形)が定冠詞(the)を伴って用いられている。
定冠詞(the)はコミュニケーションの相手と名詞に関する共通のイメージを持っていることを前提とするとの意思表示であった。
なので、この英文の解釈として考えられるのは、
解釈1:機械は、動力を用いて意図した動作を発生させる。私とあなたにとって機械とはそういうモノでしたよね?
解釈2:私とあなたが(何らかの経緯で)特定しているその機械は動力を用いて意図した動作を発生させる。
といったところだろう。
解釈1、例によって、当然知っているよね?という圧力である。一応、この分野にいたことがある私として十分にあり得る場面だ。
しかし、解釈2には少し違和感を覚える。
なんでわざわざ特定の機械についてそんな当たり前のことを言うのか?という違和感である。
ということで、定冠詞(the)、不定冠詞(a, an)、名詞(単数形、複数形)等、名詞の扱い方のみによって、その意味の解釈は微妙に揺らぐ。
厄介なのは、明らかな間違いというのは存在しないが、おろそかにしていると相手に違和感を与え、その違和感が蓄積していく事である。
私のなかでは、これこそが、英文ライティングにおける致命的なミスである。