ちいさな、おはなし。 -27ページ目

少し汗ばむ日曜日、ある場所にて。

視力はすっかり衰えてしまったが、何かが顔についてるということ自体がイヤで、メガネはあまりかけない。仕事中も裸眼で通してしまう。


でもこのときばかりは後悔した。

中学校のグラウンドのライト側にはマンションがある。
その駐車場あたりからこっそりと野球部の練習を覗いてみると、
熱血監督の怒号が飛び交う中、選手たちが懸命に動きまわる姿が見えた。

いっしょうけんめいに目をこらしたけれど、愛しいあの子の姿は見えない。

おかしい。

野球部に入部したはいいものの、練習の厳しさに早くも弱音を吐き始めた息子。

少年野球時代も何度も経験したことではあるけれど、
やはりこちらは気が気ではない。
手を変え品を変え、励まし続けて、ようやく練習に出かける今日この頃。

もう小学生ではないのだから、堂々と中学の敷地に立ち入って監督さんに挨拶、そして見学・・・なんてことはしたくない。何よりも本人がそうしてくれるなと言う。

だからこの駐車場からこっそり、つとめてこっそりと見学していたのだけれど、
あの子の姿が見えなかった。

もしかして俺のいない間に家に帰っちゃったのか?
そう疑い始めた頃、ぼやけてしまった視界に、鮮やかな黄色いグローブが目に入った。

サードを守ってノックを受けている何人かのうちの一人に、
見覚えのある身体の動きをする選手がいた。

はっきりとは見えないけれど、
はっきりと立(りゅう)だと分かった。

熱血監督の強めのノックを受け、ときおりポロポロ後ろにそらす。
というかそもそも、臆病者の彼には強すぎる打球だろうに。

あそこはああすれば、こうすれば。。。

しかしもう僕の手の届くところには、彼は、いない。

そしてもうひとつ。

小学生の頃にはなかったような激しい態度。
大きく声を張り上げてノックを受けるその態度。

何回かにⅠ回はきっちりと捕って、ファーストに投げている。

もうこれを見ただけで十分だった。

もうこれだけで十分だ。

あいつが帰ってきたら、マッサージをしてやるんだ。

イチローのお父さんもそうしてたっていうけど、
僕がマッサージをするのはそれとは別の意味。
いつ自分に何があってもいいように、そのためにする。