◎名古屋フィルハーモニー交響楽団 第465回定期演奏会〈レム『ソラリス』/日本音楽財団ストラディヴァリウス・シリーズ5「ドラゴネッティ」〉2019年2月22日18:45・2019年2月23日16:00@愛知県芸術劇場




藤倉大: 『ソラリス』組曲[世界初演]

ドヴォルザーク: ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品53(B.108)*

チャイコフスキー: 交響曲第5番ホ短調 作品64




とにかく運の良い演奏会だった。

日本初演の予定だった藤倉さんの新作は、

事情により世界初演に!

しかも当の藤倉さんは、直前に尾高賞受賞という快挙!

いやが上にも注目を集めた。


個人的にも、今回の名古屋遠征で親類宅に泊まる予定だったが、

当日予定していた夕方着だと都合が悪いとのことで、

じゃあせっかくなら金曜日の1日目の公演も聴いておこうと、

急遽1日目もチケットを取ったのだった。


そもそも、今回はインバル以来の

「指揮者のためだけの地方遠征」

だった。


ヴィットはこれまで、シマノフスキやルトスワフスキなど、

同郷の現代音楽での名演を聴いてきた。


しかし、一番聴きたかったのはチャイコフスキー。



ヴィットを一昨年知って以来、最もハマったのは、

たくさん聴いた中でも、このナクソスのチャイコフスキー交響曲集だった。

「ヴィットはもはやポーランドでもポストを持たないから、
ワルシャワ・フィルやポーランド放送響が来ても、
ヴィットと来てくれるかわからないし、
日本のオケでチャイコフスキーをやってくれないかな…」

…と思いきや、名フィルでやることを去年の暮れあたりに知り、
有給を無理やり取ってでも行くことを決意。
その際岐阜県内に住む親類宅に泊めてもらい、
さらに彼らも誘って行くことにしたのだ。

前置きが長大になり失礼。

まず1曲めの藤倉さんの『ソラリス』組曲。
作曲者が自ら登壇し、開演前に曲解説。
素晴らしい企画!曲の把握が、特にオペラをもとにした組曲なので、
意図や流れが細かくわかり、聴きながら情景が細かく読み取れた。
曲は大まかに分けて3部構成。
特に終楽章は圧巻だった。
特に気に入ったのがコーラングレとチェロによる、
メロディーの歌い込み。
響きが本当に美しい!
ヴィットの指揮も、さすがポーランド現代作の初演&録音魔の面目躍如たるところ。
キュー出しがなんとも絶妙で、
団員もおっかなびっくり感はなく、
指揮をよく見て、まるで昔からのコンサートピースかのごとく、
堂々たる演奏。

しかしこのオケ、本当に上手い。
全体的に技量のバランスが均一で、パート間のムラがほとんどない。
特筆すべきはホルンとオーボエで、
オーケストラの中でも高難易度と言われるこの2楽器で、
これほどまでに安定した演奏が出来るのは、名フィルの最大の武器だろう。
東京のオケでもこの2パートが揃うのはN響と都響くらいか。

続くドヴォルザークのコンチェルトはフルシャ×シュパチェクという、
チェコ若手の最精鋭で聞いて以来。
あの時は、「ライブだとこんなに映えるのか、この曲は!」
と、目ん玉ひん剥いて仰天した。
あの時はキレにキレた本当にカッコいい演奏だったが、
今回のエーベルレの演奏もこれまた、悶絶するほど素晴らしい演奏だった。

まず、この人の音、すっごい芯がしっかりしてる。
ピアニッシモでも実に朗々と響く。
特に高音になると、ハーモニクスが広いのか、
実に聴き心地の良い太い響きがする。

また、ヴィット×名フィルの引き立ても立派で、
オケの見せ場では思いっきりスラヴの魂(?)
と思われる特濃のサウンドを響かせるし、
ヴァイオリンが歌うところではひたすら伴奏に徹し見事に支える。
職人、スコアの隅々まで知り尽くし、まさに地に足のついた
堂々たることもさることながら、ツボをことごとく押さえる。
マッサージ師では?ww

2日めは緊張も取れ、第3楽章のあの光さすような幸福感はなんとも言えない…。
エーベルレもオケの団員もみんな楽しそうに、
いい顔して弾いてましたね〜。
日本のオケもこんな底抜けて明るい、
楽しさと幸福感ある音を出せるようになったのかと、
小さい頃から聴いてきたクラヲタとしては感動でした。

アンコールのプロコフィエフもチャーミング。

今年はコパチンスカヤ、バーエワ、エーベルレと
高技量のヴィルトゥオーゾに3人も出会えたけど、
どの人もみんな個性があって、その個性を磨き出す才能の塊なんだろうと感じた。

後半のチャイコフスキー。

奇跡の超名演!
…くぅぅ、やられた。してやられた…。

こんなのありかよ…。
ツボ押しすぎなんだよ、おじさん…。
もはや北斗神拳じゃんwwww

第1楽章は静寂から始まる、
しかし哀愁たっぷりのモノクロームの世界から始まったが、
マーチが始まると一気にカラー映像の激情のうねりの世界とでもいうか…

物凄い迫力。

1楽章の時点でここまで圧倒されるとは…。

今月聴いた東フィルのマラ9も、
金管を中心にした物凄い迫力だったが、
こちらはさらに一まわりも二回りもすごい…。

しかも、トランペットもトロンボーンも、
あのソビエト調の耳を劈く様なタイプではなく、
どんなに鳴ってもまろ味のあるふくよかな音。

昔のカラヤンの録音の時のベルリン・フィルによく似た響き、
…って、ヴィットさん、かつてカラヤンのアシスタントもやってたんですよねw

第2楽章。
コレは、本当に、本当にやられました。
第2楽章のホルンのソロ!
首席の安土さんの演奏は、堂々とした音色と音量もさることながら、
こういう抽象的な表現もアレですが、豊かな表現力…。
人の感情を鷲掴みする様なソロです。
あー、この方でブラームスの2番のソロとか聴いたら、
大変なことになりそうですww

とにかく冒頭から涙を堪えるのが必死。
そして、チェロによる再現部。

ああ、酷いよ…ww
こんな泣かせに来ることないじゃん…。
しっかし、チェロの首席の太田さんもアツいなあ。

そんなこんなで激しく打ちのめされた第2楽章の後。

少し箸休めできるかな、と思った第3楽章。

あーーー、美しい!美しいよ!!

ちょっとぐらい脳を休ませてくれ!(怒)
※もちろん嬉しい悲鳴ですw

このおじさん、人の琴線のツボばかりグイグイ押してくるね。
CDはもっと落ち着いたスタンダードな演奏だと思ったけど。
もうライブでのグイグイ押すのがハンパない…

第4楽章は正直本当に覚えてない。

とりあえず、感情が激しく揺さぶられたというか、
傑作の力は凄いというか。
こんなにも人の気持ちを揺り動かす、その力に驚いた。
もうこうなると聴き手は、音楽の前に平伏すしかない。

終演後はあまりの感動で震えが止まらなかった。

…ああ、こんなチャイコフスキーはもしかしたら後一生に、
何度も何度も聴けるもんじゃないな。

わざわざ名古屋遠征をした甲斐がありました。
絶対また聴きに行きます!
今度は私の大好きな小泉監督で聴かなきゃ!

今年の私的コンサート・オブ・ザ・イヤー最有力コンサート!
いいコンサート目白押し激戦2月でしたが、
最後に凄まじいの聴いちゃいました。



エピローグ:
終演後、奏者の方々が元気な声で
「ありがとうございました!」
とお見送りされてましたね。
私は海外のオケとかもたくさん見てきたつもりですが、
こういうの、素晴らしいですね。
私からすると、プロのプレイヤーの人たちは、
恐れ多い、雲の上の存在だと思っていましたが、
まさか団員の皆さんから近くに来てくれるなんて…。
素晴らしい日本人らしさだと思いました。
(なんだか上から目線ぽくて、書いてて申し訳ないですが…)
海外のオケでは絶対真似できない。

定期会員さんたち、正直羨ましいですww