奎吾は裸のまま海辺のハウスデッキから、凍りつく潮風を全身に受けながら素足で海へと歩き始めた。
マイナスの空気を背中で吐き出し、紅潮させた胸から太陽の熱を吸収するかのように波際までゆつくりと歩き続けた。
マイナスの空の下で肌の色を徐々に紫色に染め、両膝が海水に入るところで立ち止まった。
微かに身体が震えていた。
しかし、奎吾は何も感じなかった。
凍りつく空気の冷たさや、海水冷たさを何も感じなかった。
奎吾にも分らなかった。
しかし、肉体は正直に反応していた。
肉体を無視するかのように、奎吾は脱力と怒りの渦の中に身を置いていた。
今は、死にたいと思うほど自分を否定していた。
"こんなはずしゃなかった"と繰り返し呟>き、拳を海面に叩きつた。
自分に対する怒りと自己否定からくる脱力なのか。
奎吾は現実を受け入れることが出来なかった。
昨日までの自分は一瞬にして消え、厳冬の海に裸のまま入水し拳を振り上げ海面を叩き吠え続けていた。
全身を海水に浸し入水したまま、徐々に死を意識した。
呼吸は気泡となり吐き出した気泡も徐々に消え、鼓動も不規則なり苦しくもがき始めた。
そして、大きく息を吐きながら海水から浮かび立ち上がり、太陽を睨みつけ言葉を放った。
「お前に恨みなんか無い。でも、なぜ俺なんだよ。こんな俺は死ぬこともできない。なら俺はまだ生きなきゃならない。どう生きたらいいんだ。何一つ自分の事など考えたことも無かった人生で、なぜ俺は今ここで死を意識したんだ。教えてくれ」
奎吾は身体を凍らせながら太陽を睨みつけ大きな声で言葉を放った。
陽の光りは朱色から黄色へと変わり、視界は黄金の道を海に浮かべ始めていた。



