「記憶の飽和 12」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




夜は音も無く、別々の部屋で眠る二人を過ぎていった。


アキラが目を覚ました時、時計は既に10時を過ぎていた。



江口はアキラより早く起き、シャワーを浴び既に身支度を始めていた。


ショートカットの髪は濡れたままだった。


ブラウスを羽織り、ベッドに腰掛けジーンズに足を滑り込ませた。



何か急いでいる。


その感情が何を意味しているのか、江口にはまだ理解できなかった。


ベッド脇の下に置いてあるヒールに足を入れ、江口は立ち上がり携帯を手に取った。





$のんびりと






同じ頃、アキラはボサボサの頭を乱暴な手つきで洗い始めていた。



バスルームのドアは少し開けたままだった。


少しして携帯電話が鳴っているのにアキラは気付いた。



ボディーシャンプーが身体に付いたままバスタオルを腰に巻き、ベッドの上に放り投げてあった携帯電話を無造作に掴み右耳当てた。



無言のまま1~2秒過ぎ



「おはようございます」



江口の声だった。




$のんびりと






「おはようございます」


「昨夜は眠れました?私は少し寝不足ぎみで」


「そうですか。僕はぐっすり眠りました。今シャワーを浴びていたところです」


「失礼しました。後程掛けなおします」




「いえ、いいんです。で?」 



"で"という言葉を口にしたアキラは、部下でもない江口になぜこんな下品な疑問符を使ったのか自己嫌悪になった。



「いえ。ただ、今日のご予定はと思いまして」


「そうでしたか。今日はレンタカーを借り実家へ向かいます」


「そうですか。私は。。。」



江口がは何か言葉を言い掛けたとき



「よろしければ、実家に同行して頂けますか?」


アキラは言葉に詰まる様子も無くsmoothに言った。


江口は少し驚いたように


「あっ、はい。でも、よろしいのですか?」


と言った。





$のんびりと







アキラは、江口が自分と同行するという前提で話しをていた。


"やはり"という言葉を聞き昨夜駅前のタクシーに自然に乗り込む江口を見れば、彼女の行動が今日に繋がることは予想できた。



互いに、何一つ旅の目的と行先を確認しない中で、こんな強引とも思える言葉を口から発した自分に石川は少し驚いた。



「私、先にレンタカーを借りホテルの玄関前で待機してますか?」


「江口さん。僕は貴方の社長ではありませ。別の会社の人間。。。だった。会社はもう辞めましたから。僕が車を借りて来ます。11時半頃玄関前に。よろしいですか?」


「はい。宜しくお願いします」


「では、後程」



電話を切った後、アキラはもう一度シャワーを全身に掛け流しながら江口の言葉を頭の中で繰り返した。


アキラ自身の意味の無い記憶。

幾度も立ち上がるsceneに、封印していた感情が立ち上がった。

それはあくまでアキラ個人の問題なはず。



斉京システムの社長が自ら明かした親子関係を受け入れるかどうかより、今は自分のrootsを確かめたかった。


ただ、それだけだった。


記憶の中で見せた母の無表情な姿。



自分が求めるものが何かを知らぬまま、人生を終えてしまうことへの恐怖が記憶を辿る旅へとアキラを駆り立てていた。


しかし、なぜ斉京システムの社長秘書である江口が同行しなければならないのかという明確な理由はどこにも無い。


彼女の口から聞いたのは、過去に背を向けるなという言葉だけ。


そして、しっかりと確かめるべきだ。。。とも。




もしも江口が斉京システムの社長から何かを聞いているとしたなら。


アキラの心の中に江口が自分の記憶を辿るkeyなのかもしれないという漠然とした思いが立ち上がっていた。









江口は、アキラが借りて来たセダンの助手席のドアを開け乗り込んだ。


車はホテルを出て高速道へと滑り込んだ。



山を突き刺すような道を、車は走り続けた。



互いに話すこともなく、ただ走り続けた。


江口は窓の外を流れる景色を静かに眺め、アキラは車を走らせていた。

 


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「一つ、江口さんに聞きたいことがあります」


「えっ?なんでしょう」



江口はハンドルを握るアキラの横顔を見た。






車は二人の会話に耳を傾けているかのように、滑らかに走り続けた。





つづく