「記憶の飽和 6」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。





江口は無言のまま車を高速へと滑らせた。


人の人生。


ほんの偶然や何気なく選んだ道は、取り返しのつかない遥か彼方へと人を運ぶ。



人生が"if"で作られたのなら意志などいらないだろう。


しかし"if"は人の心にいつも潜んでいる。


自分が運ばれてきた人生の果てを見るなら、偶然のまま脊を向け消えることを選ぶだろう。


アキラは心の中でそう呟いていた。


窓の外で踊る気まぐれな光は、アキラの瞳の中を流れていた。




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倉沢はアキラがなぜ斉京システムの社長宅へ向かうことを知っていたのか聞けなかった。


ただ、社長とアキラの間に何かあることだけは確かだと感じた。


江口は何も言わず、バックミラーに映る二人の様子を時折見ては視線を前に戻し車を走らせた。


20分ほど走り高速を下り市街地へと車は入った。




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車は20分ほど街中を走り、郊外の静かな住宅街の外れにある大きな門扉の灯の前で止まった。


江口は細くしなやかな指先で小さなリモコンのスイッチを押した。


重厚な門扉が自動で開き始めると、車は緩いカーブを描きながら門の奥に広がる森の奥へと進んだ。


やがて和洋折衷の館が街灯に映しだされた。



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車は正面に音も無く止まり、江口は正面玄関の扉をゆっくり開け二人を中へ促した。


二人は大理石が敷き詰めたられた玄関ホールを通り、赤い絨毯が敷かれた客間へと通された。


アキラは少しなれたように一人掛けの深い椅子に身体を沈め、倉沢も隣の椅子に腰を下ろした。


江口が言った。


「暫くお待ちください」


アキラは煙草を取り出し火を点けようとした。


その時部屋の奥の扉が軋むように音を立てゆっくり開いた。


そこには髭面の初老の紳士がナイトガウンを羽織ったまま立っていた。


「アキラ君。久しぶりだね」


アキラは立ち上がり、社長と目を合わせることなく小さく頭を下げた。


倉沢も続いて深く頭を下げた。


「君は、倉沢君だね」


「はい。初めてお目にかかります。倉沢信吾と申します」



江口は社長から少し下がり離れた位置で三人の様子を見ていた。



「私は別室で待機しております。では、失礼致します」


社長は江口に軽く目を配り頷いた。




「で、我々を呼んだ理由をお聞かせ下さい」


アキラは単刀直入に疑問を発した。


社長は、諭すようにゆっくりと言った。


「そう焦らなくても。他人行儀たな。アキラ君」



倉沢は二人の会話を静かに聞いていた。



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「今日は仕事の話じゃないんだ」


アキラは社長を見据えた。


倉沢は自分が石川部長と共に訪れた意味を失い掛けていた。


自分には関係の無い話のように感じ


「部長。私は先に帰りますか?」


と小声で言うと、アキラは


「いや、いてくれ。特に深い話では無さそうだ」


「あっ、はい」


二人が話をしている様子を見て社長が


「倉沢君。君にも聞いて欲しいんだ」


「はい」


「飲み物も出さずに失礼したね」


「もう遅いので要件だけお聞かせ下さい」


アキラが言うと、社長はゆっくりとした口調で言った。


「アキラ君。君はなぜ我社を辞めたんだね?」



倉沢はアキラの顔を見た。



石川部長が斉京システムにいた?






つづく





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