彼の思考の根本は、現代社会の規範に対する反感かもしれなかった。自分で意識などしなかったが、読者からは批判めいた言葉を綴った手紙を受け取ることがある。なぜそれほど社会に対し反感を抱くのか。それには少し理由がある。リスクをエネルギーにする社会など、彰にとっては、人の不幸や不安といったものを食い物にする社会と同じ感覚で捉えてしまうのだ。
人は本当に幸せになりたいのかと疑いたくなるような社会現象に、彰は目を向け耳を傾けることさえためらいたくなる。自分の考えや意思を社会に対し見えぬようにしながら見せるという唯一の手段、それがこの小説の世界だった。人は自己満足の世界だと言うかもしれないが、これほど自分の心をさらけ出してしまうとは、そしてこれほど周囲から制約を受ける仕事とは思ってもみなかった。
理想と現実。その隙間に自分がいる。何が真実かは、全て自分の目で見、耳で聞いたり手で触れたりしたことから脳が認識し、そこに心の隙間が生まれ、その隙間を埋めようと努力する。しかし、本当は目に見えないものを捉えようとすることこそ人間の人間たる証拠かもしれない。そこに思考があると。理想と現実の隙間こそ、彰にとっては格好の隅だといえるだろう。そこに多くの題材があり、それは生きる上での課題であり、思考の宝庫なのかもしれないと感じていた。
テレビを見ていても、結局はこんな感じで頭には何も情報は入らない。見ようとしないから、結局は感覚的質感と思考的質感が立ち上がることも無く、転寝状態となるのは分かっている。
気が付くと夜の7時近くになっている。
彰はグレーのジャケットをはおり女将の居酒屋へと向かった。
心地よい風が彰を包んでいた。
「迷惑な芯火12」より^^;



