真白な世界が広がっていた。
夜空を流れる雲は陽の光を遮り、白い光は湖面を滑るように走った。
その光が恒太郎の足元を照らすと、白い光は薄れ湖の色よりも淡い青色の光へと変わった。
恒太郎は、目の前に広がる世界を自分の心のframeに納めるように見つめた。
「ここに"意志"がある。アルカナはここにいる。。。いや、あるんだ。。。ここに」
そう小さく呟き唇を横に引き締めた。
青い光に包まれた静寂に響き渡る白鳥の泣き声が、一片の花びらのように恒太郎の肩越しに聞こえてきた。
恒太郎は、声のする方を見上げた。
真白な白鳥は青く染まりながら、翼を大きく広げゆっくりと湖に舞い降りて来た。
恒太郎は、凍りつく湖に足を踏みいれようとしたその時、海砂が掌から湖に零れ落ちた。
湖は一瞬にして青く透き通っていた。
恒太郎の背後から、懐かしい声がした。
「ただいま。。。」
振り返るより早く恒太郎はそこに誰がいるかを知っていた。
振り向かず恒太郎は言った。
「おかえり。。。」
恒太郎は、ゆっくりと振り向き。。。小さな体を両腕で強く抱きしめていた。
アルカナの声が恒太郎の胸の中へ溶け込んでいた。
「10度目は覚えていないと思っていたよ。なぜ、僕を覚えていたの。。。」
恒太郎の胸に頬を寄せたまま、アルカナが言った。
「君は、私を写真に撮ったでしょ。あの時が。。。君が見落としたものがあったの。。。」
「それは何?」
「知りたい?」
「うん。知りたい」
「。。。どうしようかな。。。」
「えっ?僕の"意志"ってイジワルなの?」
少し笑いながら恒太郎が言うと
「そうかも。だって10度目なのに私を夢と現の隙間から引き寄せたのよ。わがままで身勝手な人かもしれないわ」
「そんなことはないよ。僕は。。。」
「僕は。。。何?」
「僕は、き。。。君に。。。ただ会いたいと思っただけだよ」
「君は両腕で私を抱きしめているけど?ふふっ。。。」
「ん。。。」
「ほら。。。やっぱりイジワルなんだね。。。君」
「違う。ぼ。。。僕は。。。自分の"意志"と向き合うことを忘れかけていた。だ、だから自分で"意志"と向き合い抱きしめたかった。それだけ。。。だよ。。。」
「ふーん。。。なーんだ。その"意志"って私?」
「そ、そうだよ」
「せっかく君を覚えていてあげたのになー。。。なんか足りないなー」
アルカナは恒太郎の胸から離れようとした。
すると恒太郎はアルカナの瞳を見つめ、両腕に力を込めて言った。
「君を。。。僕の"意志"を愛している」
「"意志"じゃない。"私"。。。アルカナ。。。」
「アルカナ、君を愛しているんだ」
「やっと、言ってくれたね。君。。。」
アルカナの瞳から、涙が溢れていた。
その涙を隠そうともせず顔を上げ恒太郎を見つめた。
二人の影は月の光よりも温かく、夜空よりも青く光っていた。
10度目という、再会してはならなかった二人。
現で恒太郎と再会したアルカナ。そして、自らの"意志"を愛し抱きしめた恒太郎。
人は旅人。
背中合わせの心を説きながら意志をさらけ出していく。
なぜアルカナが恒太郎の傍にるのか。
なぜアルカナが時を超え"意志"を見せたのか。
自らの明日を消し去ることも知っていながら。。。
限りないの時の隙間に吸い込まれ、歩き続けた全てを恒太郎は変えようとしていた。明日に過去を重ねるほど、恒太郎は"意志"を抱き寄せていたのだった。
アルカナが静かに言った。
「君の言葉が聞けたから。。。うん。。。」
そう言うと、恒太郎から身体を少し離した。
恒太郎が言った。
「一緒に行こう」
「どこへ?」
「いいから、行こう。僕と一緒に」
「何を言ってるの?君には明日があるのよ。今"意志"に目覚めたのに。また彷徨うの?現なのよ、ここは。私はここに存在することは出来ないの。君には失うものがあるの。私には何も。。。ない。。。の」
「バカだな。君はアルカナ。もう君は僕の"意志"じゃない」
「じゃ、何?」
そうアルカナが言う言葉を静止するように、影は一つになっていた。
つづく

