53.Love to support | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。





 錬太郎が戻った世界とは。。。創られた物語の世界なのか。。。それ以前の世界はいったい。。。



 なぜ、彼はこの世界に戻ることができたのか。。。




 それは。。。彼を支えていた人達。。。彼自身。。。気付いていない人たちの強い想いがあったのかもしれない。





 錬太郎が事故に遭遇し、それ以後の記憶を泉によって消し去られていた。



 錬太郎は父と二人暮らしだった。




 錬太郎が事故で亡くなり、父は独り暮らしとなっていた。泉は、錬太郎の父親を自分の父として見守ってした。



 父もまた記憶は消され泉を本当の娘として、ごく自然に生活を続けていたのであった。





 錬太郎は、泉の父として聞かされ。。。泉に紹介された時も、疑うことは無かった。






 あの日、錬太郎が消えた日。。。病院の父が無くなる瞬間と重なっていた。



 医師である加納裕次郎に絶え絶えの声で。。。こう告げていた。






「息子が危ないんでしょう。。。先生。。。いや。。。自販機伯爵」







 と。。。







 アッ君、いや。。。加納裕次郎は少し驚いていた。なぜ、私を知っているのだろう。。。


 なぜ息子が錬太郎だと知っているのか。。。



 裕次郎は戸惑いながらも静に聞いていた。






「泉さんが私の記憶を消すとき、一つたげ消せなかったことがあったんだよ。それは大きくなってからの錬太郎の記憶じゃなく、3歳までの記憶なんです。あの笑顔だけは。。。父にしてくれた幼いころの息子の笑顔だけは。。。抱き上げた息子のぬくもりだけは。。。消せなかったらしいんです」




「泉さんは誠心誠意尽くしてくれた。私は、全てを心にしまい込むこにしました。ただ、自販機伯爵。。。貴方のことは解らなかった。。。昨日までは」





 父はかすれた小声で言葉を続けた。




「私の意識が薄れていると思ったのでしょう。先生はベッドの耳元で瑠菜という看護師と錬太郎の話しをしていました。瑠菜という看護師は、先生を自販機伯爵と呼んでいた。貴方には、何か力があるのでしょう。。。」







 と裕次郎の手を握った。






「私は十分。。。幸せでした。出来ることなら。。。この老人の命。。。二人が幸せに戻れるなら。。。錬太郎と引き換えさせてくれませんか?お願いです。。。自販機伯爵」






 裕次郎。。。いや、自販機伯爵が口を開いた。






「解りました。しかし、暫くは人間にもどれませんよ。いいですね。私はこうなることを知っていました。私は自販機世界の者ですが、この人間のすばらしさを人間であった私は知りませんでした。。。」







 父の手を裕次郎は握り返していた。






「生きること、自分を支える人。。。無償の愛。。。全てを理解した上で、なお愛する者のために自分を犠牲に、全て心に仕舞い込んだ者達が互いを思いやり。。。そして支えていた。。。いや。。。そこに、活かされことに生を感じるしかできない人間達。。。心を打たれます。私自身、活かされた人間であったことに。。。気付きました。。。」




 父の手の力が無くなっていった。。。


 

 普段、何気なく自分が世界の中心であるかのように振舞う人間達。しかし、身の回りにある、誰も気付かないような。。。人や物。。。自然が。。。幸せを与えてくれている。。。そこに本当の生きる力を貰っている。。。




 伯爵はそう思い始めていた。。。彼自身が人間であったとは。。。





 錬太郎の父、泉、裕子、多香子、麻里恵、健太、太助、瑠菜、そして裕次郎(アッ君)。。。





 それぞれが、いや。。。社会の中にある小さな物までが。。。みんなの幸せを願っているに違いない。


 それに気付く心を持ち合わせていれば。。。もっと幸せになれるかもしれない。。。




 伯爵は、瑠菜を想った。。。




つづく