ボートに乗り始めて15分くらいしたところで、麻里恵が
「健太、これって水?なんか増えてない?」
と言うと、健太は
「ん?あぁ。。。浸水してる。早く岸につけなきゃ!岸までは何とかもつよ」
しゃがみこんだ姿勢を戻そうと、麻里恵はバランスを崩しボートは大きく揺れた
「あぁぁぁぁぁ。。。」
健太は倒れそうな裕子をボートの上で抱きかかえ、しゃがみ込み姿勢を低くした。
健太は麻里恵を確りと抱きかかえたまま二人は顔を見合わせていた。
心地よい風が二人を撫でながら健太は岸へとボートを漕ぎ始めた。
桟橋に着くと、麻里恵は
「健太には、二度も救ってもらってことになるかな♪」
とクスッと笑った。
健太は麻里恵に手を差し伸べ、ボートから降ろし二人は木陰に腰を降ろした。
健太は不思議そうに
「二度も?救った?僕が?マリちゃんを?今始めてじゃないの?」
「いいの♪いいの♪」
健太は少し不思議そうな顔をして麻里恵を覗きこんだ。
「ケンちゃん♪今、何時?」
と麻里恵が聞いた。
「ん。。。6時23分かな!」
と答えると
「健太、私。。。のど。。。沸いたから何か飲もうよ♪」
麻里恵は健太の腕を取り、指定された自販機に二人は向かった。
「僕、万札しか無いや。どうしよう。。。マリちゃん持ってる?120円?」
「あれっ。。。私の財布。。。無い。さっきボートが揺れた時。。。小銭を入れた財布落としたかも。。。えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。。。もう。。。どうしよう。。。」
その時、時刻は6時30分に近づいていた。二人とも小銭がないまま自販機の前に立っていた。麻里恵は完全に焦っていた。その様子を健太が、不思議そうに見ていた。
「俺、コンビニで崩してくるよ」
「時間がないの!もう。。。どうしよう。。。あぁぁぁぁ」
そこへ、夏菊瑠菜が現れた。
「はい。120円お貸ししましょうか?私、夏菊瑠菜と言います」
と軽く会釈した。
麻里恵は、錬太郎がが話していた女性であるとわかり。。。ほっとした。それもつかの間、今度は 目の前に60台後半の男性が割り込みコインを入れようとしていた。
麻里恵と瑠菜は一緒に。。。
「ダメ!~。。。。ダメ!ダメ!」
っと、大きな声を張り上げた。その男性と健太はあっけに取られた。男二人は言葉を返せないほどの迫力だった。
6時37分まであと5分。錬太郎と裕子は、廃墟となった旅館の正面入口そばにある自販機の前に立っていた。
自販機があったのだけでもすごいことなのに。。。電源が入っている。奇跡に近い。。。錬太郎は自販機伯爵に心で礼を言った。
二人は手を繋ぎ、錬太郎がポケットに手を入れると、そこに多香子がくれた120円が入っていた。
6時37分前にコインを入れようとしたおやじを押しのけ、麻里恵と瑠菜も時計を見ながら。。。隣り合わせの自販機に120円を入れた。
錬太郎も同時刻にコインを入れた。
そして、泉は自宅近くのいつもの自販機から120円を投入。。。
一瞬時間が止まり、コインを投入したそれぞれの自販機の周りが光輝いていた。
それは眩しく。。。周囲のものを全て消し去るくらいの光だった。
錬太郎。。。裕子。。。泉。。。麻里恵。。。健太。。。そして、瑠菜。。。
それぞれの思い。。。その願いを込めて。。。コインは投入された。。。
全ては輝く光の後に。。。
人は時として信じられないほどの力が出せるという。それほどの力を、今この全員が自販機に注いでいた。
空気が止まり。。。
眩しいほどの白い光が消え。。。
静寂がもどり。。。
それぞれが自販機の前に立っていた。。。
が。。。一人足りなかった。。。
一人だけ。。。欠けていた。。。
つづく