28. Empathy | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。





 翌朝、錬太郎は妻、泉(虫観るチームメンバーの命のいずみ)に起こしてもらい社に出勤した。朝はトーストにバターをたっぷり塗っていた。泉から、カロリーが高いのでバターは薄く塗るように言われた。


 少し泉を正面から見ようとしていない錬太郎だった。でも、まてよ。。。何も後ろめたいことはない。

 自分が創りだした物語だ。


 でも、何か変だ。。。錬太郎はやはり戸惑っているようだった。


 あっ、そういえば時間はどうなっているんだ。現実世界と時間のずれはあるのかな?タイムトラベルか?自分がこの物語に入り込んだ時点へ戻れるのかな?その疑問を彼ら二人に問うことを忘れていた。



 でも、まぁ。。。いいさ。物語は終わりがあるし。


 でも、自分が浅はかだと少し気付いていた。


 なぜなら、登場させる彼らの生活歴そのものも考慮する必要があるということだった。虫観るチームメンバーを単なる登場人物として名前と役を振り分けるだけでは済まないかもしれないということだった。


 もしかすると、とんでもない世界に入り込んでいると、錬太郎は思い始めた。



 気づくのが遅い。。。



 すでに妻の泉も登場人物として決めてしまっている。社員の紫陽花裕子もそうだ。いったい俺は妻とどんな夫婦関係にあるのか?ここには、二人の歴史なしには関わることはできなだろうと。。。そして紫陽花裕子との関係についても。。。


 あらためて、錬太郎は人間の関わりについて考えさせられていた。



 ともあれ、物語はスタートした。


 さてと、しっかり今日も頑張るかな♪



 左手には昨夜、裕子から借りた傘が握られていた。






(おい!錬太郎。。。足取り軽いじゃん♪顔も少しにやけてるぞ!)





 ん?





「あっ!アッ君!自販機の前だけで会話することにしてなかったか?」



(そう思ったが。。。つまんないからな。。。だから付いていくことにした) 



「もう、話がややこしくなるから。。。ちゃちゃ入れないでくれよ!頼むよ!」



(あいあい。。。♪)





 駅前の商店街を通り掛かったとき、七夕飾りが目に入った。錬太郎は秘かに願いを込めていた。




 錬太郎の願いとは?







(錬太郎!その願いってなんだ?教えろよ♪)






「うるさいな。。。もう。。。ダメ♪」







 錬太郎が勤めている会社は医療機器関連のシステムプログラム開発を主軸に事業展開している。錬太郎はその開発部門の統括部長をしている。部下からは「昼行灯」と言われつつも親しみを持たれ、上司からは煙たがられているという設定のようだ。



 オフィスはビルの12階、おやじの机は東窓際にある。



 机の中には”ポテチ”が入っている。なんとも頼りない部長に見えるが、クライアント交渉では、その卓越したシナリオを提示し?????




(嘘つけ。。。ほとんど部下の力だろう♪)





「うるさい♪」






 交渉成功率は8割を超える!いつものように部下の報告書に目を通していると携帯が鳴った!




(ほら来た♪錬太郎が考えそうなストーリーだよなー。。。)




「私、多香子(タカコ)。父が倒れたの。。。今、病院にいます」





 ん?これはチームリーダーのタカポンだな。なるほど。。。意外にも錬太郎は柔軟に電話応対した。






「えっ、どこの病院?。。。うん。。。うん。。。わかった。昼過ぎから自由が効くから行くよ」





 多香子(虫観るチームのリーダー。。。タカポン)は、いつもの赤提灯のおやじの一人娘である。多香子は月に数回店を手伝うことがあるが普段は老人福祉施設の勤務する介護福祉士であった。


 

 不定期な勤務の間、時々おやじさんを手伝っていた。今朝、おやじが起きてこないのを心配して寝室に行ってみると、布団から半分身体を出したままうつ伏せの状態で倒れているのを見つけ、慌てて救急車を呼び病院へ搬送してきたのだ。




 錬太郎は昼過ぎ、車で20分くらいで救急病院へ駆けつけ、救急外来にいる多香子を見つけた。





 (ほほう。。。ちゃんと生活歴も入ってるな。。。錬太郎。。。なかなかだな♪)


 


 「大丈夫か?おやじさんの具合は?」





 目を赤くして多香子は錬太郎に近づいて来て






「うん。心筋梗塞だって。今少し落ち着いてるけど、もう少し遅かったらどうなっていたか解らないって先生に言われました」






 多香子と二人暮らしで身よりは他にいない。常連の錬太郎はいつも何かと相談にのっていた。






「そっか。しっかりしろよ!夕方また来るから」



「えっ、もう。。。帰るんですか?」






 と多香子は泣きそうな顔をして錬太郎のスーツの袖をつかんだ。






「じゃ、社に電話入れるから待ってて」





 夕方まで2回のICUフロアーで多香子と錬太郎は長いすに腰掛け、おやじさんの様態を見守っていた。





(あれっ?。。。これは。。。少し。。。感情というものが現実と交差しているかもしれない?まずいぞ。。。ん。。。)





 なんとなく。。。錬太郎自身が物語を現実世界と交差し始めている感覚をアッ君は少し感じていた。




 やや安易な気持ちで始めた物語。。。






 錬太郎の心は、登場する虫観るチームのメンバーに深く入り込もうとしている。。。





 そのことが、物語の顛末を大きく左右することなる。。。





つづく