<ちょっと。。。思い出せないんだ。。。ごめんね♪錬ちゃん♪>
「錬ちゃんって!。。。あぁぁぁぁ。あっ、そうだ。。。今夜、俺どこに帰るんだ?」
(ここから勝手に足が向かうよ。。。心配しないで歩いていけば分る)
<そそ♪>
「そうなのか?」
<もう、錬ちゃんの心の中では物語出来てるから大丈夫よ♪>
「そか。うん。わかった」
(それで納得するから君は素晴らしい!)
「それって、褒め言葉になってない。まぁ、いっかぁ。じゃ、俺帰るよ」
(あ、あと。。。一つだけ。私たち二人に用があったら自販機の前に来てくれ。ここで話そう。それと。。。君の奥さんだけど。。。あっ、まぁいいっかぁ。。。じゃ。。。)
「えっ?なになに?奥さんって何だよ?おーい!アッ君!ヒマちゃん!返事しろよ!」
と自販機に声を掛けていた。
丁度その時、一組の若いカップルが通りすがり錬太郎を見てクスクスと笑って通り過ぎていった。錬太郎は、自分が不審者に思われていると思ったがかまわなかった。自分が創る物語だから。
歩きながら、錬太郎は彼ら二人との会話を思い出していた。
この状況でも呑気な男だ。今夜どこへ帰るかも知らないのに。
これからも繰り返される様々な社会現象。一体、人類がどこへ向かおうしているのか彼らにも予測できなくなっているのだろうと思った。
生と死について、或いは人間について考えることなど錬太郎自身、普段の生活で考えることなど無かった。なのに、何故。。。今。。。生きる意味など考え始めているのだろう。
ただ、自販機のアイスを買いに出かけ、コインを落とした。
それが始まりだった。なぜ、こんな展開になっているのか。。。考えても錬太郎にはどうしようも無かった。
人は、翻弄されながら漂っているのかもしれない。それを彷徨うと捉えるか自分の意思だと捉えるかは自由だ。だが、おそらくは前者の方が適しているように思えた。
中年男子、すでに心を生み出す脳は既に破壊が始まっているのだろうか?
己の限界を感じはじめているのか?それを受け入れることのできない自分がいるのか?その現実かから逃避しようとしているのか?。。。何が。。。今、生きる意味を考えよう。。。自分の心を駆り立てているのだろうと。
周囲とは何一つ変わりなく関係を保ちながら生活していた自分。
心の中では、明日を照らす光を探すには、無力な自分が存在していたのかもしれない。
抑えきれない喪失感や脱力感を感じ取ったりすることも。
「己を殺す」ことが美徳とされる日本社会の姿は過去のものかもしれないが、古い自分には現代社会になじむ術などないかもしれない。
周囲から期待され、理想的な夫、或いは妻としてみなが振舞う。そう演じ続ける。だが、どこかで躓いて崩れていく。理想の夫、理想の妻の座から降りられなくなり、その限界で破局がくる。
己を殺すことは相手や周囲の人をも殺すことになるかもしれない。喪失感や脱力感は、きっとそこからくるのかもしれないとも思った。
自分の人生を振り返り、その価値を問いながら。。。生きる意味を問う衝動に駆られ始めているのかもしれない。自分が創りだす物語でその答えを知ることができるのだろうか。
そんなことをつらつら考えながら夜道を歩いていた。
すると、彼の足はマンションの前に立っていた。
ん?ここは。。。と考える間もなく、体はマンションのエレベーターに向かっていた。7階のボタンを押した。ごく自然に。。。そしてドアが開き左へ折れ707号室の前に立っていた。そして、チャイムを鳴らしていた。
すると、中からチェーンロックを外す音と同時に女性の声が聞こえた。
そして。。。ドアが開いた。
「おかえりなさい。遅かったわね。あっ、また飲んできたのね。先にお風呂入って」
錬太郎はその女性を知らない。
ただ、自分を夫として迎え入れたことだけは確かだった。しかし、錬太郎が創る物語の中ではまだ妻の役を誰にするかなど考えていなかった。ただ、その時。。。”泉”。。。という虫観るチームのメンバーの名前が浮かんだ。
もし、自分がここで泉。。。いずみ。。。と彼女を。。。いや妻を呼んだとき、その反応がどんなものか多少迷ったが、自分が創る物語ならそれも許されるだろうと思った。
その夜は、妻と多くを語ることもなく、妻の名前を呼ぶこともなく、風呂あがりにテーブルに出された夕食を食べ就寝した。
寝室は一緒だが、ベッドは別々だった。これも、錬太郎の創る物語の影響なのか。まあ、詳しくは詮索しないでおこう。
もう、錬太郎の頭の中では明日の展開がどうなろうと知ったことかという開き直りの心境だった。
でも、まてよ!これって俺がいた現実世界でも同じ感覚で生きていたぞ。この物語の世界でも同じく開き直って曖昧に生きたら。。。いい加減な話になるな~。。。ん。。。でも、まぁ、いっかぁ。
錬太郎の性格は、とてつもなく曖昧だった。さて、明日からの錬太郎の創り出す物語はどんな展開を見せるのだろう。。。
そして生きる意味を、錬太郎は自分が作り出す物語の中で知ることができるのだろうか。
筆者も知る由もなかった。。。
つづく