9.出社 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 おやじの会社は都内にある。昨年まで支社勤務だったが本社へ移動となり、システム開発部統括部長として現在勤務している。


 まぁ、昼行灯というあだ名の通り、居眠りしているのか書類に目を通しているのか。デスクにあるノートPCで社報とメールチェック、部下の提出書類に目を通し席を立った。



 ビルの窓から外に目をやり、今野美由紀という女性のことを思い浮かべた。どんな女性なのだろうと。


午後2時、おやじは時田常務から呼ばれた。





「君、本社へ戻ってきてから仕事の方はどうだね。そろそろ再婚も?君も、もう50に手が届く。仕事ばかりではな。。。来年は昇進もな。直属の部下としては君には期待しているし、しっかり身を固めてもいいんじゃないか?澤井君」



「はぁ。。。最近は、再婚とかは考えたこともありませんが」





そう言いながら頭に浮かぶ女性がいた。





「おやじさん。。。ミミクロのミミ♪です。。。ホイッ♪」


「んっ!今は常務と話しているんだから。。。後で。。。後にしてくれ」


「常務はお見合い写真を持ってますよ♪その方の名前は今野美由紀さんとおっしゃる方です」


「なにっ!本当か?」


「ホイッ♪」


「後で詳しく教えてくれ」






時田常務が不思議そうにおやじを見て





「澤井君、君。。。誰と話をしているのかね?」




 と言うと




「あっ、はい。何でもありません。失礼しました」





 すると常務が





「今、私の手元に写真があるんだ。家内の知り合いのお嬢さんなんだが、商社に勤務しておられる」





 と言うと、おやじは





「はぁ」


「どうかね、写真を見て一度合ってもいいようなら。無理にとは言わないが。。。」





 と時田常務が言うや否や





「ハイ。。。宜しくお願いします」





 と声を上ずらせながらおやじは返事をした。





「写真を見なくてもいいのかね?い。。。いえ、あっ。。。はい」





 直立不動で一礼し写真に手を伸ばし静に開いた。



 おやじの心臓の鼓動が高まり手に汗が滲んだ。






「大丈夫かね。。。君?」





 常務が心配そうに顔を覗き込んだ。


 その写真に写っていた女性とは???あぁ、おやじは驚いた。なんという偶然。


 おやじはデスクに戻り、放心状態から少し開放されたようだが、まだ興奮冷めやらぬといった感じだ。珈琲を一口喉に流し込んだ。


 どういうことだ、彼女が今野美由紀だったなんて。



 ボーツとしていると





「澤井部長♪企画書、ここに置きます。今日の会議まででしたね」



 と、部下の柴田瑠璃子(るりこ)がデスクの前に立っていた。




「おうっ、るりちゃん。。。ありがとう。どうだ、今日会議が終わってからみんなで飲みにでるか!」




 とおやじはやや上機嫌で言った。


 すると瑠璃子は





「みなさん、今夜。。。澤井部長のおごりで飲みに出ます!参加できる人!!!挙手♪」




 すると部署の全員が手を挙げている。あぁ。。。こんな時だけは。。。みんなまとまりがいいんだよな。さて、会議まで資料に目を通すか。



 お見合い写真に写っていた女性。。。今野美由紀とは。。。いったい。



 そう。。。おやじが。。。唯一守りきれなかった女性だった。。。


つづく