31. | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。



 女将の店へは商店街を抜けていく。賑やかな通りを、中年二人が無言のまま歩いていた。二人は、それぞれ何を思い女将の店へ向かっているのだろう。

 pure friend。

二人はそんなものかもしれない。互いに心の奥深くでは信頼し合っている。互いを知り尽くしている。男同士というものは、普段別に話は無いもの。

 何年も、何十年も会っていなくても、再会したときには子供の頃と同じように「おぉ」それだけだ。年賀状も、何年ぶりかで届いたと思って見ると、書いてある言葉は「もう40過ぎたな」とか「もう50だよ」くらいのもの。

 他には何も書かれていない。

 その言葉一つで全て済む。互いに同じ歳を重ねてきた友だからなのか。多くの言葉は必要ない。

 彰はそんなことをつらつらと思い歩いていた。時に人は時間や距離など時空をまったく無意味にさせる瞬間がある。

 空や海、草木や花、道。建物や空気、そして音や人。一瞬に自分を過去の世界へ飛び立たせる。

  A heart trip。。。二人は今、そんな瞬間を感じ取っているのかもしれない。

 もう五月も終わる。

 また、雨が降り始めた。二人は小走りに女将の店に駆け込んだ。駆け込んで来た二人を見て女将は微笑んだ。



「あら、何?二人で一緒に来るなんて?」

「あっ、いや。特に何も」

「そんなー、初めてよ!二人で店に来るなんて♪何かあったんでしょう」

「彰がうちの診療所に遊びに来たんだ」

「遊びに?中年二人で何して遊ぶのよ?おかしいわぁー♪怪しい」

「いや、誠司に聞きたいことがあってさぁ」

「そんなの電話でいいんじゃないの?♪」

「あっ、女将の店に来るついでに寄っただけだよ。なぁ!誠司」

「おっ、おぉー」

「変なの♪まぁ、いいでしょ♪仲良しになったのね♪」



 二人は女将の前では、まるで子供だ。



「女将、俺の顔って何歳くらいに見える?」

「そうねぇ、50歳」

「それ、そのまんまだよ」

「誠司、お前は鏡見てんのか?白髪と顔のシミ、弛んだ頬。どう見たって50だろう」

「彰、お前だったそうだろう?」

「いや、俺はお前ほどたるんじゃいない」

「また。せっかく仲良く二人揃って来たのに。も少し仲良くしなさい」

「はい」


 二人は同時に返事をした。


 男というものは、どうしてこうも争いたがるものなのか。特にこの二人はそうだ。しかし、軽いジャブを出すだけで、相手を追い詰めることは決してしない。なかなか上手いものだ。

 今夜は居酒屋にしては珍しく、彰はバーボンを飲んでいた。


 世界には五大ウィスキーがあると昔何かの本で読んだことがあった。

 アイリッシュ、スコッチ、カナディアン、ジャパニーズ、そしてバーボンだと。バーボンは正しくはアメリカン・ウィスキーと言えるだろう。

 バーボンウィスキーはケンタッキーがまだバージニア領であった時代にできた九つのカウンティーの中の一つだと聞いている。

 独立戦争時、アメリカを援助したフランスのブルボン王朝ルイ14世に感謝し名付けたようだ。

 バーボン群ではとにかく水が良かったということがあっただろう。

 彰はバーボンを一瓶だけ、女将に頼んで自前で置かせて貰っていた。

 ジョニー・ドラム15年もの。

 ヒーロウになりきれない男が一人飲む酒のように彰は感じていた。

 男はヒーロウになりたがるもの。

 今夜、彰は誠司にも注いだ。

 それぞれ、ヒーロウになりきれない二人の男。

 ヒロインに巡り合う道のりも、それぞれだった。


 それぞれのヒロインも、ヒーロウを待ち望んでいるのだろう。。。


つづく