72.「Chaos」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 ネテルだった。

 彼はヒョイッとカウンターの椅子に座った。一つだけ空いていた丸椅子に座り周囲を見渡して言った。


「みんないるね」


 みんな?みんなって何だ?錬太郎は、その言葉に首を傾げた。

 周囲の反応は様々だ。タマさんは驚きもせず彼を穏やかに見ていた。マスターも同じく彼の様子を見ていた。段五郎は、まさに宇宙人とでも遭遇したような顔??? 諒子は


「可愛い♪どこから来たの?坊や?」

 と優しく声を掛けた。

 恭子が兄の写った一枚の写真をカウンターの上に静に置いて言った。

「お兄ちゃん?」

 と。


 錬太郎がネテルに言った。

「そろそろ顔を見せてくれるかと思っていたよ。ネテル、どこにいたの?」

 と彼の肩に手を当てた。

 すると小さな身体のネテルは錬太郎を見て言った。

「喉が渇いたよ。お水ちょうだい」

 と、キョロキョロと周囲を見ながらボサボサの頭を掻き毟った。マスターがコップに水を注ぎ、ネテルの前に置いた。

 ネテルはコップの水に黒く薄汚れた小さな手を伸ばし、水を勢いよく喉に流し込み麻布の袖口で口を拭いた。

「ありがとう」

 と一言いい、小さな手で恭子の髪を撫でた。そして言った。

「僕はネテル。ウルシュから聞いたよね。僕、本当はみんなの前に出て来ちゃ駄目なんだー。トトが言っていた。でも、いいんだ」

 と小さな笑顔を見せた。

「ネテル、”みんな旅をしている”そして、”みんないるね”って言ったよね?」

 と錬太郎が聞いた。

「うん。言ったよ♪」

 とネテルが言った。

 すると段五郎が

「ネテルさんよ!何でそんな格好してるんだ?寒くねーか?聞きたいこと山ほどあるけど、忘れちまった♪腹減ってるんだろう?俺の店の鯛焼き食うか?」

 と言った。

「うん♪お腹空いてたんだ」

 と段五郎を見て親指を立てた。

 ん?親指を立てた?これってタマさんの癖?

 さて、フォリナーの空間はどこへ連れ去られていくのか。

 錬太郎は確かにエジプト文明の歴史や中世ヨーロッパの絵画が好きで、休みの日は古代史に関連する本をよく読んでいた。理数系にしては変り種と昔から友人言われていたが、今、彼の頭の中にある記憶が膨らみはじめていた。

 Paramnesia、既視感というべきこの空間。

 もしや。。。



 そう言えば、あの絵の中の空間も。


 錬太郎の混沌とした心の世界は、現実の見える世界とリンクし始めていた。


 ウルシュとして目覚めはじめているのか?


つづく