ネテルだった。
彼はヒョイッとカウンターの椅子に座った。一つだけ空いていた丸椅子に座り周囲を見渡して言った。
「みんないるね」
みんな?みんなって何だ?錬太郎は、その言葉に首を傾げた。
周囲の反応は様々だ。タマさんは驚きもせず彼を穏やかに見ていた。マスターも同じく彼の様子を見ていた。段五郎は、まさに宇宙人とでも遭遇したような顔??? 諒子は
「可愛い♪どこから来たの?坊や?」
と優しく声を掛けた。
恭子が兄の写った一枚の写真をカウンターの上に静に置いて言った。
「お兄ちゃん?」
と。
錬太郎がネテルに言った。
「そろそろ顔を見せてくれるかと思っていたよ。ネテル、どこにいたの?」
と彼の肩に手を当てた。
すると小さな身体のネテルは錬太郎を見て言った。
「喉が渇いたよ。お水ちょうだい」
と、キョロキョロと周囲を見ながらボサボサの頭を掻き毟った。マスターがコップに水を注ぎ、ネテルの前に置いた。
ネテルはコップの水に黒く薄汚れた小さな手を伸ばし、水を勢いよく喉に流し込み麻布の袖口で口を拭いた。
「ありがとう」
と一言いい、小さな手で恭子の髪を撫でた。そして言った。
「僕はネテル。ウルシュから聞いたよね。僕、本当はみんなの前に出て来ちゃ駄目なんだー。トトが言っていた。でも、いいんだ」
と小さな笑顔を見せた。
「ネテル、”みんな旅をしている”そして、”みんないるね”って言ったよね?」
と錬太郎が聞いた。
「うん。言ったよ♪」
とネテルが言った。
すると段五郎が
「ネテルさんよ!何でそんな格好してるんだ?寒くねーか?聞きたいこと山ほどあるけど、忘れちまった♪腹減ってるんだろう?俺の店の鯛焼き食うか?」
と言った。
「うん♪お腹空いてたんだ」
と段五郎を見て親指を立てた。
ん?親指を立てた?これってタマさんの癖?
さて、フォリナーの空間はどこへ連れ去られていくのか。
錬太郎は確かにエジプト文明の歴史や中世ヨーロッパの絵画が好きで、休みの日は古代史に関連する本をよく読んでいた。理数系にしては変り種と昔から友人言われていたが、今、彼の頭の中にある記憶が膨らみはじめていた。
Paramnesia、既視感というべきこの空間。
もしや。。。
そう言えば、あの絵の中の空間も。
錬太郎の混沌とした心の世界は、現実の見える世界とリンクし始めていた。
ウルシュとして目覚めはじめているのか?
つづく