55.「The truth。。。Section 1」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 錬太郎が。。。

「俺。。。少し風に当たってくる。。。」

 と席を立とうとした。恭子は錬太郎の腕をつかみ。。。

「錬太郎。。。だめ。。。ここにいて。。。私を見て。。。ちゃんと話して。。。私をここに置いていかないで。。。お願い。。。」

 と。。。言葉を震わせながら言った。

 「わかった。。。」。。。

 錬太郎は座り直しした。


 バーボンを一口流し込んだ。。。こんなにバーボンが心に沁みる。。。俺も明日を閉じる日が近いのか。。。いや。。。それは。。。

 タマさんもマスターも。。。二人を見ることはしなかった。ただ、静にグラスを手にしていた。。。

 錬太郎は、恭子が記憶の世界へ入り込む瞬間、恭子の肩に触れていた。。。そして老紳士と共に。。。霧が立ち込める松林の中の小道に立っていた。二人は沈黙したまま立っていた。

 錬太郎は。。。周囲を見て。。。ここが何処であるかをすぐに理解していた。。。そして、老紳士。。。そう恭子の父を名乗る人物が何を話すのか。。。静かに言葉を待っていた。

 二人は松林の奥の小道をゆっくりと進んだ。潮の香りのする一風が。。。小道を通り抜けた。。。そして。。。深森神社の境内が二人の目の前に開けた。。。
老紳士が言った。。。

「君は。。。解っているね。。。ここがどこか。。。」

「はい」。。。

 と一言。

 老紳士はゆっくりと話し始めた。

「私が始めに恭子の記憶の中で会った時、恭子は灰にまみれて手足が真っ黒になっていた。。。君達。。。二人が浜辺で焚き火をしていた時のことだよ。。。そして二度目の今日。。。花火の燃えカスの灰に彼女の足が触れた。。。それが。。。恭子を。。。彼女の記憶の世界へ。。。つまり。。。見えない世界へと誘うことになった。。。しかし、ただ灰に触れるだけでは無理なんだ。。。」

「君たちがこの空間を。。。死後の世界と捉えても不思議じゃない。。。ただ、死後という霊の世界と言われる場所じゃない。。。君の記憶の中にいる。。。ここは君の心の中の世界なんだ。。。“目には見えない世界”。。。君の未来もここにある。。。」

 と言った。

「未来も?。。。それはどういうことなのですか?」

「未来は君が決めることのできる確かなものだよ。。。ここなら時間も君が決めていいんだ。君たちの過去は曖昧なものでいつも塗り替えられているが。。。この世界では無意味だ。現在も過去も一瞬に過ぎない。。。“時”の長さなどに意味はない。。。全て一瞬の出来事にしてしまうことさえ出来る。。。」

「灰に触れることが。。。この世界の扉を開く切っ掛けになっていることには気付きました。。。ただ、貴方は本当に恭子のお父さんなのでか?確かに。。。そう話されました。。。三度も私の前に。。。姿を変えて。。。現れた。。。」

 と錬太郎が言うと。。。

「確かに。。。君の前に現れ。。。恭子自身が自らの記憶を探るためには。。。どうしても君の力が必要だったのだ。。。“見える世界”と“見えない世界”の間を仲介する者。。。私はgate-keeperと言うべきな者。。。私に実体は無いのだよ。。。」

「待って下さい。。。恭ちゃんのお父さんは。。。お父さんなんでしょ?!」

 と錬太郎がもう一度。。。彼に詰め寄った。

 すると

「彼女の記憶の中の父であることには違いない。。。彼女は今。。。自分の記憶の中の父と会っている。。。はずだ。。。」

「今目の私の前にいる貴方も彼女のお父さんなのですか?。。。」

 と錬太郎が言うと。。。

「私は恭子の父としてこの見えない世界に存在している。見える世界では。。。自然界の“時”に制約を受ける。そして、様々な形の物や人になり。。。その限られた時間のみ存在するのだよ。。。しかし、この見えない世界では時間の重複や前後。。。重なりなど無意味なこと。。。」

「遥か昔。。。一日が25時間だったころと現在の一日の時間の差。。。その差が約1時間ある。そこに、見える世界と見えない世界を仲介する私が存在する。その“時”にだけ唯一。。。現実の世界に姿を現すことができる。

 その1時間という隙間に彼は私は漂っているというのか。。。

「現実の世界。。。見える世界では誰も気付くことのない時間なのだ。。。認識されていない時空間。。。地球の地軸が変わりつつある今、時間のずれそのものも小さくなりつつある。。。」

 と彼言った。


 錬太郎は混乱していた。

つづく