36. 「君を」   | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 恭子は明日の旅立ちの夕暮れを待つことなく。。。フォリナーに向っていた。居酒屋を出た錬太郎もフォリナーへと。。。  風が少し冷たい。ビルの谷間を抜け団地側の公園に差し掛かった。。。その時、月明かりに照らされながら街路樹の通りを歩いてくる恭子を見つけた。

恭子はまだ錬太郎に気付いていなかった。

 錬太郎は彼女が進む前に街路樹の影から飛び出して言った。。。

「よっ♪恭ちゃん!」

 恭子は少し驚いたように

「もう。。。♪」

 と俯きぎみに錬太郎の顔を見上げた。ゆっくりと街路樹を歩く二人。  
 繋いだ手は。。とても暖かい。恭子が

「待ちきれなくて。。。♪」
 
 と。

「そっかぁ。。。」

 と錬太郎が一言。

「今夜は少し風も強いし。。。冷えるよ。。。錬太郎」

 と恭子は繋いだ手を錬太郎の腰にまわした。錬太郎は何も言わず肩から包むように腕を差し伸べ。。。二人は寄り添った。言葉はいらなかった。

 こんなにも。。。大切に思う。彼女の記憶に何があろうと。。。錬太郎は恭子を守るしかないと心で呟いていた。もう、後戻りは出来ない。彼女もそれは覚悟しているのだろう。時間を掛けてゆっくり。。。そう思うこととは裏腹に時は待ってくれなかった。

「今夜は近くのホテルに予約入れたの。。。」

 と恭子が言った。

「そっかぁ。。。」

 と錬太郎は一言しか答えなかった。すると

「今夜の錬太郎は“そっかぁ”しか言わないの?♪」

 と恭子は錬太郎の顔を下から覗き込んだ。  

 「うん」

 と。。。また一言。恭子は

「なーんだ。明日のこと考えてる?」

 と聞いてきた。錬太郎は何も答えなかった。

「大丈夫だよ。錬太郎は心配性だから。。。♪みんなで楽しく過ごせるといいね♪」

 と恭子は努めて明るく声を出した。錬太郎は堪えきれず。。。

「無理すんなよ。。。俺。。。そばにいるから。。。守るから。。。」





「ばか♪」

 と恭子は頬を伝う涙を見せまいと空を眺めた。

「私ね。。。幸せになるの。きっと。。。幸せになれると思うの。。。。だって。。。」

 と言いかけ。。。錬太郎の胸に顔を埋め。。。二人の足は止まった。

「ばか。。。は。。。どっちだよ?♪」

 と錬太郎はためらいながら。。。恭子の瞼に顔を寄せた。。。  

 月光りが。。。とても優しく降り注ぎ。。。心が決める“時”は。。。今、二人だけのものになっていた。  

 

 人は、守るべきものがあって。。。初めて生きていると感じるのか。。。と。。。

 錬太郎は心の中で呟き。。。恭子を包んでいた。。。夜は更けていく。。。二人を残して。。。

 錬太郎の胸が。。。僅かに濡れていた。。。


つづく