26.「ワン・フォー・ザ・クーリッジ」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 日曜日、錬太郎はマスターを自分のボロ車の後部座席に乗せ海へ向かっていた。昨夜はフォリナーで軽く飲み、帰宅してから恭子に予定通りタマさんの海の家に向かう旨を電話で伝えた。

 「錬ちゃん。。。この車に乗って何年?」

 とマスターが聞いてきた。錬太郎はバックミラーで後部座席に座るマスターに目を一瞬向け。。。

「ん。。。12年くらいかな。。。なんで?ボロイから?気に入ってるんだよ。。。この車さぁ♪出来の悪いやつほど可愛いって言うじゃん♪」

 と言うと、マスターは窓を少し開け外の流れる景色を見て言った。

「そうじゃないんだ。。。きっと色んな思い出があるんだろうな~って。。。この車にさぁ。」。。。

 錬太郎は何も答えなかった。暫く沈黙が続きサザンのJAZZアレンジ曲を聞きながら車を走らせた。

 少し道路が混んでいたが2時間半ほどで海に着いた。疾風のタマさんの隠れ家の玄関脇には流木が積み重ねられ、バーボンの空瓶が二三本横たわっていた。相変わらず薄汚れた壁と散らかし放題の玄関を見て、マスターと錬太郎は顔を見合わせため息をついた。

 店の玄関戸が壊れないように開け中に入ると、恭子がカウンターの中でなにやらタマさんと食材を調理している姿が目に入ってきた。

「ただいま。。。」

と錬太郎が言うと

「お帰りなさい♪」

と恭子が嬉しそうに言った。

「おやおや。。。人の店に来て“ただいま”とはね。。。いつから錬太郎と恭ちゃんの店になったのやら?♪」

 とタマさんがからかいながら言った。

 男二人はカウンターから離れた海の見える窓際の席に腰掛、珍しくクロスが掛けられたテーブルの真ん中にある小さな花瓶に生けられた福寿草に目をやった。

「あっ、それ♪私持ってきたの♪春でしょ♪。。。どう?可愛いでしょ!私みたいに?♪」

 と茶目っ気たっぷりである。無言でいると。。。

「ちゃんと答えないと二人には食べさせないわよ!」

 と恭子が言うと

「もちろん。。。おっしゃる通りです。とても可憐で可愛らしい。。。」

 とマスターが真摯に答えた。

「錬ちゃんは!?」

 と彼女が繰り返して聞くと錬太郎は立ち上がり

「はい♪春そのものです。恭ちゃんの可憐さには負けますが。。。」

 と言った。すると

「お世辞はきらいです♪心がこもってないな~」

 と恭子は笑いながら

「仕方ない。。。食べさせてあげますか?タマさん?」

 と横を向いた。

 「あんたたち、ほら、座ってないで暖炉に薪を入れておくれよ。海辺は風があるし冷えるんだから。。。あっ、それじゃなくて。。。少し大きなの燃やしておくれよ!」

 と二人はバタバタと働き出した。ふと、立ち止まり、飾り棚の中ほどに錬太郎は琥珀色のボトルを見つけた。“ワイルドターキー・レアブレード”。。。一品だ!!!ということは。。。夕食は七面鳥?確か野生の七面鳥に敬意を表して名づけられたと言われるバーボン。

「えっ?ケンタッキー・スピリッツも♪。。。タマさんすごい。。。」

 とマスターと薪を暖炉に入れるのを忘れ見入ってしまった。

「ほら。。。もたもたしないで。。。席についた着いた!!」

 恭子とタマさんは一皿づつテーブル置いた。

「おほほほー。。。茹で卵のピクルスだ!」

 と錬太郎が声を出した。するとタマさんが

「さあ、勇気のための一杯だ!ワン・フォー・ザ・クーリッジ。。。♪」

 というと、ビールのロングネック瓶を出し、四人で乾杯♪。。。あぁぁぁ、いつバーボンを飲めるのか。。。

ピクルスの黄身にむせつつ

「タマさん。。。ホットソースないの?」

 とマスターが言った。酢のにおいでさらにむせる錬太郎。その二人を見ながら女性軍は表情も変えずに食べ始めていた。タイ料理の辛さに耐えられるくらいの辛さにも動じない女性に。。。男二人はあっけに取られていた。はは。。。二人はビールじゃなくレモネードを飲んでいた。。。

 窓から暮れ行く海を眺めながら、暖炉の火が窓ガラスに映りだされ暖かい夕べを作り出していた。恭子は時折錬太郎の横顔を眺め、まどから見える海の景色に彼をはめ込んで見ているようだった。

「あのさぁ、もう話は聞いてると思うけど。。。一緒に行ける?旅にさぁ!」

 と錬太郎が恭子を見て言った。すると

「はい。ご一緒させて下さい♪」

 とはにかむような笑みを浮かべレモネードを一口。

「はいはい。。。さぁ。。。今夜はなんの話だい?そう言えば今夜は恭ちゃんが集めたようなもんだからね。。。どんなお話かい?ただ、海が見たい。。。それだけかい?♪」

 とタマさんが言った。

「はい。実は。。。。」

 と恭子がゆっくりと言葉を流しはじめた。。。錬太郎とマスターは。。。まだピクルスにむせつつも彼女の言葉に耳を傾けていた。。。

 テーブルにはホット・ブラウンが並んだ。トーストの上にロースト・ターキーのスライスとベーコンとハムをのせ、パルメザン・チーズを振ってオーブンで焼いたものである。これなら。。。まだビールだな。。。と、焦ることなく恭子の心に耳を傾けていった。。。

 人は時として、止めど無く言葉が零れ落ちる瞬間がある。それは、頭で考えているものではなく、心が語っている時。。。

 波の音が。。。店の窓をくすぐり。。。四人の心まで静に響かせていた。。。

つづく