17.「線香花火」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




「恭子さんの心の中で。。。このまま人生が過ぎていく。。。ということと。。。深森神社が焼けてしまったこと。。。とても大切な思い出まで燃えて消え去ることに。。。何か怖さを感じた。。。それはアイデンティティに関るような気がします。。。だから焼け跡を見たとき自分が焼けてしまうような。。。一番心に残しておきたい思いで。。。その記憶と錬太郎の姿が結びついた。。。でも、何故。。。錬太郎なのか。。。楽しい思い出だったのかな?。。。思い出す理由にしては少し弱いかな」

とマスターはボソボソっと笑いながら答えた。

するとタマさんが

「何言ってるのよ♪好きだからよ。。。とても心が温かくなる。。。憧れとは違うのよ。。。本当に♪。。。何か忘れ物したとかじゃないの。。。でなきゃ。。。会いに来たりしないはずよね。。。恭ちゃん♪」

とタマさんは酔いも手伝って言いたい放題♪

 「あぁぁ。。。それは直接すぎる回答ですよ♪タマさん♪」

とマスターが言った。

「錬ちゃんへの恋心は小さい頃のものでしょう。。。それも10歳も離れていた頃の恋心なんて」

とマスターの言葉に

「あーら、歳なんて関係ないわよ♪私なんか20歳以上離れた人と恋に落ちたもの♪」

とタマさんが言うと

「それはタマさんの話でしょ♪今は恭ちゃんのこと♪」

とマスターが言った。すると

「失礼しちゃうわぁ♪恋に年なんか関係ないのに。。。ねぇ」

と小皺の目立つ目じりに深い影をつくりながら、タマさんは恭子の顔を見ながらピンクのマフラーを取ってカウンターに置いた。恭子は頬を少し赤らめた。

 「うん。。。僕もそこが知りたかったけど。。。でも。。。何か。。。知らなくてもいいような気がするんだ。。。ここに彼女が来てくれて。。。こうしてみんなと一緒に楽しく食事して飲んで語って。。。僕の今を。。。素直に。。。何も聞かずに受け入れてくれる。。。だから、ここのいる。。。それだけでいいんじゃないかな」

と連太郎は低い声でゆっくりと言った。

タマさんは

「錬太郎。。。偉い♪男は細かいことまで詮索したり聞いたりしないものよ。。。人の心に触れるのに言葉はいらないの♪五感♪五感♪第六巻?いやいや第六感♪」

と。。。

「私。。。きっと。。。自分が誰なのか知らないのかもしれない」

とポツリと。。。恭子が言った。

「えっ?何いってるの?」

と錬太郎は恭子を見つめた。

「あれっ?マスター♪この袋に入って埃を被った線香花火。。。どうしたんですか?」

と急に明るい声で言った。

「あぁぁぁ。。。それ去年の夏、ここにいる三人で花火でもしようと思って買っておいたんだけど。。。酔っ払ってボツになって。。。そのまま。。。どうして?」

「みなさん♪線香花火しましょうよ♪冬の線香花火♪錬太郎。。。ほら!持って。。。♪」と恭子がはしゃぎだした。

「ほほーっ!冬の線香花火ね。。。いいじゃない♪マスターはバケツに水!」

とタマさんもはしゃいだ。

錬太郎は恭子に腕を掴まれ、言われるまま線香花火を持って店の外に出た。また、小雪が舞い始めていた。フォリナーの線香花火を。。。雲に隙間に見え隠れしているお月様も、花火を見たがっているようだった。

 店の前の路地にしゃがみ込んだ四人。ロウソクの火の先端にそれぞれが手に持つ線香花火の先端をかざした。小雪が舞う寒空の下、それぞれの線香花火が輝き始めた。何を思い恭子は花火をしたいと思ったのか。。。衝動?いや。。。そんなことはどうでもいい。。。こんな冬の線香花火なんて一生に一度あるかないか。

うっすらと道を覆う雪の絨毯。。。その上で雪に照らされ小さくも眩く光り輝く線香花火。。。その命の短さ。。。儚さに。。。憂いを感じながら。。。錬太郎は花火に照らし出された恭子の横顔にふと目を向けた。

心の扉が開くのを感じていた。。。そう。。。人の夢ほど。。。儚い。。。眩いからこそ。。。夢であるべきなのかもしれない。夢が現実になれば夢で無くなる。人は進歩などしない。。。何も変わってない。

今、心に触れようとしている自分を強く感じていた。

恭子の帰る場所はここじゃない。。。恭子の言葉を思い出した。。。“あの頃に帰りたい。。。連れてって”と。錬太郎は恭子の心の奥に。。。触れるのをためらいながら、その横顔に子供の頃の一場面を重ね始めていた。線香花火と共に甦る記憶。。。錬太郎は繋がり始めた記憶の糸を。。。静かに手繰り寄せていた。
線香花火は消え、夜空は晴れ、星が張り詰めた空気の中でいっそう輝いていた。

 心を覆う心。。。今の錬太郎の心にお酒の神様が出してくれる処方箋なら。。。ブルーグラスの名曲。。。「カッパ―・ケルト」。。。カントリー・ジェントルメンの歌った「銅の釜」でも聞かせて欲しい。主人公は月光族(ムーン・シャイナー)。。。密造酒作り。

 まさに月光族になりつつある錬太郎とマスター、そしてタマさん。。。三銃士?

つづく