ー無理なくお金が残る、暮らしの整え方ー

「節約しなければ」と思うほど、苦しくなっていた

「今月こそ、ちゃんと節約しよう」

そう決意したのは、仕事を辞めて収入がなくなった直後のことでした。

まず食費を削りました。スーパーに行くたびに値引きシールを探して、少しでも安いものを選ぶ。お菓子やちょっとしたおやつも我慢する。外食は極力やめて、家で済ませる。

電気代も気になって、使わない部屋の電気はこまめに消す。エアコンの設定温度も、少し我慢できる範囲で高めにする。

でも、不思議なことに、そこまで頑張っても、思ったほど貯まらない。それなのに気持ちだけは、ぐったりと疲れていくのです。

ある日の夜、ふと気づいたら、スマートフォンでネット通販のサイトを眺めていました。「セール中」「タイムセール終了まであと2時間」という文字が目に入って、気づけばカートにいくつか入れていました。

後から合計金額を見て、ため息をつきました。

「あれだけ我慢していたのに、また使ってしまった」

節約しようとして、却ってストレスをためて、その反動でお金を使ってしまう。そんな悪循環を、何度も繰り返していました。

「節約とは、我慢することだ」と思っていた頃の私の姿です。

考え方が変わったのは、一冊の本がきっかけだった

あるとき、ハローワークの帰り道に立ち寄った図書館で、暮らしのお金に関する本をパラパラとめくる機会がありました。

その中に、こんな一文がありました。

「節約とは、削ることではなく、整えることです」

その言葉が、妙に心に刺さったのです。

削る、ではなく、整える。

言葉は似ているようで、まったく違うものだと思いました。「削る」は、苦しみを伴います。「整える」は、気持ちよくなれる気がします。

それからしばらく、「整える」という言葉を頭に置きながら、自分の暮らしを見直してみました。

すると見えてきたのは、「使いたくて使っているお金」ではなく、「なんとなく使い続けてしまっているお金」が、思った以上に多かったということでした。

それに気づいてから、少しずつ、暮らしの形が変わっていきました。

節約は「我慢」ではなく「暮らしの整理」

物価が上がり続ける今、

「年金だけで、本当に暮らしていけるのだろうか」
「老後の資金は、果たして足りるのだろうか」

そんな不安を感じている方は、決して少なくないと思います。

私も、仕事を辞めてから、そういった不安を何度も感じました。特に一人暮らしだと、家賃も食費もすべて自分一人でまかなわなければなりません。収入のない状態が続くと、通帳を見るたびに支出にため息が出るようになっていきます。

だからといって、毎日を我慢ばかりで過ごしていては、人生が楽しくなくなってしまいます。
好きなものも食べられず、会いたい人にも会えず、行きたい場所にも行けない。そんな暮らしは、長くは続けられません。

60代から大切なのは、「削る」より「整える」こと。

使わないものを手放して、本当に必要なものだけを選ぶ。暮らしを軽くすると、不思議なくらい、お金も自然に残るようになるのです。

習慣① 節約の一番の敵は「我慢」だった

節約を始めようとするとき、多くの方が最初にやることがあります。

「今日から絶対に無駄遣いはしない!」

そう心に誓って、あらゆるものを我慢し始めるのです。

でも、これが長続きしない最大の原因だと、私は思っています。

実は人間というのは、我慢し続ければ続けるほどストレスがたまり、その反動でお金を使いやすくなる仕組みを持っているそうです。心理学の世界では「コントロールの消耗」と呼ばれる現象で、意志力を使い続けると、どこかでプツンと切れてしまうのだそうです。

私自身も、まさにこれを繰り返していました。

日中は我慢して、我慢して、夜になってスマートフォンを開いたら、気づけばネット通販で買い物していた。

「あんなに頑張ったのに」と後悔するのですが、次の日にはまた我慢して、また夜に反動が来る。

そんな繰り返しでした。

だから私がたどり着いたのは、日常はゆるく節約して、楽しみにはちゃんとお金を使うというやり方でした。

具体的には、

年に一度の国内旅行のためのお金。気の置けない友人との月一のランチ代。長年続けている趣味の道具を新調するための費用。

こういった「楽しみのためのお金」を、あらかじめ「予備費」として家計の中に確保しておくのです。

そうすると、「このお金は使ってはいけない」というプレッシャーがなくなります。「ちゃんとそのためのお金があるから大丈夫」と思えると、日常の小さな我慢がずいぶん楽になるのです。

メリハリのあるお金の使い方が、長続きする節約のいちばんのコツだと実感しています。

習慣② ネット通販は「1日待つ」を徹底する

ネット通販は、本当に便利です。家から出なくても、重いものを運ばなくても、好きな時間に好きなものが注文できる。60代の一人暮らしにはありがたい存在でもあります。

でも、その便利さが落とし穴でもあります。

「セール中につき30%オフ」

「残りわずか、あと2点」

「今日中に注文で送料無料」

こういった表示が出てくると、つい焦ってカートに入れてしまいます。実際、そのような「今すぐ買いたくなる」仕掛けは、意図的に設計されているものなのだそうです。

私が何度か後悔した末にたどり着いたのが、カートに入れて24時間待つというシンプルなルールでした。

これだけで、無駄な買い物が驚くほど減りました。

翌日になると、「そういえばこれ、本当に必要だったっけ」と冷静に考えられるのです。「勢いで欲しかっただけで、実は似たものが家にある」「よく考えたら、使う場面が思い浮かばない」といったことに気づけます。

それでも翌日見て「やっぱり欲しい、必要だ」と思えたものだけを購入する。

この習慣だけで、衝動買いによる出費はかなり減らせます。

それにもうひとつ。60代になると、これからは少しずつ持ち物を減らしていく年代でもあります。物を一つ買えば、収納スペースが必要になり、掃除の手間が増え、管理するものが増えていく。お金だけでなく、時間とエネルギーも使うことになるのです。

買う前に「私はこれを何年使うだろう?本当に生活に必要なものだろうか?」と自分に問いかけてみるだけで、買い物の質がぐっと上がります。

習慣③ 「いつものこれ」を決めてしまう

スーパーに行くたびに、こんなことを考えていませんか。

「洗剤はAとBどっちが安いかな」

「この新商品、気になるな。試してみようかな」

「ティッシュは5箱まとめ買いした方がお得かな」

毎回こういった判断を繰り返していると、実はそれだけで脳がかなり疲れてしまいます。心理学的には「決断疲れ」と呼ばれる現象で、小さな選択を何度も繰り返すだけで、気力や集中力が削られていくのだそうです。

そこでおすすめしたいのが、お気に入りの定番を決めてしまうという方法です。

洗剤はこれ。醤油はこれ。シャンプーはこれ。ティッシュはこれ。

こうして「いつものこれ」を決めてしまうと、スーパーに行っても迷わずに済みます。いつもの棚のいつもの場所から、さっと取れる。それだけで買い物がずいぶん楽になります。

さらに嬉しいのは、ストックの管理がしやすくなることです。

「あると思っていたら、なかった」という経験はありませんか。私は何度かやらかしたことがあります。「醤油があるはずだから買わなくていい」と思って帰宅したら、もう残りわずかだった、ということが。定番を決めて管理していると、「残りが少なくなってきたら買う」というタイミングをつかみやすくなります。

節約とは、お金だけを節約することではありません。考えるエネルギーや、時間を節約することでもあるのです。「ゆる節約」の中でも、この習慣はとりわけ日々の暮らしを穏やかにしてくれると感じています。

習慣④ 食費を削りすぎるとあとで高くつく

節約を意識し始めると、多くの方が最初に手をつけるのが食費です。

確かに、食費は毎日かかるものですし、工夫の余地もあります。でも60代の節約において、食費だけは「削りすぎてはいけない」と私は強く思っています。

なぜなら、60代は健康への投資をやめてはいけない年代だからです。

人間の筋肉は、年齢とともに減っていきます。意識しないでいると、50代から60代にかけて、特に落ちやすいと言われています。筋肉が減ると、転びやすくなり、疲れやすくなり、やがては日常の動作にも支障が出てきます。骨折や寝たきりのリスクも、確実に上がっていきます。

筋肉を保つために、食事から摂るべき大切な栄養素が「たんぱく質」です。

一般的に、1日に必要なたんぱく質の目安は体重1kgあたり約1.0〜1.2gとされています。体重が50kgの方なら、1日50〜60g程度が目標になります。

でも「たんぱく質をしっかり摂る=食費がかかる」というわけではありません。家計にやさしくて、栄養価も高い食材は、意外とたくさんあります。

鶏むね肉は、低脂質で高たんぱく。値段も手ごろで、茹でたり焼いたりと使い方も簡単です。

は、完全栄養食とも呼ばれる優れた食材。毎日食べても飽きないよう、ゆで卵、炒り卵、卵焼き、スープなど、調理法を変えてみるといいですね。

木綿豆腐や納豆は、植物性のたんぱく質として毎日の食卓に取り入れやすい食材です。値段も安定していて、扱いやすいのが助かります。

サバ缶やツナ缶は、保存がきいて、調理の手間もほとんどかからないので、一人暮らしには特に重宝します。サバ缶はそのまま食べても、味噌汁に入れても、炊き込みご飯にしても美味しい。私もよくお世話になっています。

食費の節約は「削る」のではなく、「賢く選ぶ」ことで十分できます。健康を守りながら食費を工夫する、それが60代の節約の考え方だと思っています。

食費をケチって体を壊してしまえば、医療費の方がずっとかかります。目先のお金を削って、後から大きなお金を使うことになる。それでは本末転倒です。食事だけは、丁寧に選んでいきたいと思っています。

習慣⑤ 一番効果があるのは「固定費」の見直しだった

節約の中で、実は一番効果があると感じているのが固定費の見直しです。

食費や日用品の節約は、毎日意識し続けなければなりません。でも固定費は、一度見直してしまえば、それ以降ずっと節約効果が続きます。手間は一度だけで、効果は毎月続く。これほどコストパフォーマンスのいい節約はありません。

私が実際に見直してみて、「あ、これは盲点だったな」と思ったものをいくつかご紹介します。

電気の契約アンペア

ひとり暮らしでは、家族で暮らしている方と比して、使う電気製品も減るはずです。
でも「昔の家族が多かった頃の契約のまま」という方は、実は少なくないそうです。
私はひとり暮らしなので、どのくらいなのだろうか?早速問い合わせてみました。
電力会社に問い合わせて、現在の使用状況に合ったアンペア数に下げることができれば、毎月の基本料金が安くなります。一度手続きするだけで、節約効果がずっと続くのです。

ただ、注意してほしいのが、賃貸住宅の場合は勝手に下げることができない場合もありますので、必ず事前の確認が必要になります。
また、一度アンペア数を下げると、やっぱり元に戻したいと思っても、すぐに戻すことはできませんので、慎重に検討することが必要です。

スマートフォンのオプションサービス

スマートフォンを契約したとき、勧められるままにオプションを付けてしまったことはありませんか。遠隔サポート、クラウドストレージ、保険サービス。一つひとつは月に数百円でも、いくつか重なると、1年間では数千円から1万円以上になることがあります。

「そういえば、あのサービス使っているかな?」と確認してみると、使っていないものが意外と見つかることがあります。私も一度しっかり確認したところ、ほとんど使っていないサービスが二つ見つかり、解約したらその分だけ毎月の支出が減りました。

使っていないサブスクリプション

動画配信サービスや音楽配信、電子書籍など、サブスクリプション型のサービスは、いつの間にか重なっていることがあります。「月額500円だから」と思って契約したものが、気づけばいくつもある、ということも。

一度、何のサービスに毎月お金が出ているかを、紙に書き出してみることをおすすめします。「全然使っていないのに払い続けていた」というものが、一つや二つ見つかるかもしれません。

「ゆる節約」は人生を豊かにするためにある

節約という言葉には、「つらい」「我慢」「苦しい」というイメージがつきまといがちです。

でも本来の節約とは、自分にとって本当に大切なものを選び、それ以外の不要なものを手放すこと。そうして暮らしを軽くしていくことで、時間にも、お金にも、心にも、余裕が生まれてくるものだと思います。

60代は、物を増やしていく人生ではなく、暮らしを少しずつ軽くしていく人生だと、最近しみじみ思うようになりました。

大きなことを一度にやろうとしなくていいのです。

まずは今日できることを、ひとつだけ。

ネットショッピングで気になったものをカートに入れたまま一晩置いてみる。冷蔵庫に鶏むね肉と卵を常備してみる。スマートフォンの契約内容を一度確認してみる。

そんな小さな一歩が、毎日の暮らしを少しずつ変えていきます。

節約は自分らしく、心地よく暮らすための知恵です。

「ゆる節約」は、我慢ではなく、暮らしの整理です。

今日からひとつ、できることを始めてみましょう。

きっと、気持ちもお財布も、少しずつ軽くなっていきますよ。