「60代でも事務の仕事、ありますか?」

ハローワークの窓口でそう尋ねたとき、担当の方は少し間を置いてから答えてくれました。

「ありますよ。ただ、人気の職種ですので……」

その「ただ」の後に続いた言葉が、すべてを物語っていました。

事務職は、60代女性が最も希望する職種のひとつです。座って働ける。これまでのPCスキルが活かせる。体力的な負担が少ない。そう考えるのは、ごく自然なことだと思います。

でも実際に求人票を眺めてみると、「これは……」と首をかしげたくなるものも、少なくありません。

今日は、ハローワークで事務職を探すとどのようなことが待っているのか、そして60代女性が納得のいく仕事を見つけるための「選択肢」について、一緒に考えてみたいと思います。

まず知っておきたい、事務職の「競争率」という現実

最初に、少し厳しい現実のお話を。

事務職の有効求人倍率は、0.3倍から0.4倍と言われています。求人が1件あるのに対して、2〜3人以上が応募している計算です。全職種の中でも、かなり競争が激しい部類に入ります。

なぜこれほど人気なのでしょうか。

それは、60代の方だけでなく、40代・50代の女性も、子育てが一段落した方も、みんなが「事務職」を目指しているからです。
清潔で、安全で、体に無理のない仕事として、多くの人が応募している状態です。

ということは、受付日からだいぶ経ってもハローワークの検索端末に残っている事務の求人は、「多くの人が見て、それでも選ばれなかった求人」である可能性があります。

もちろん、タイミングよく良い求人に出会えることもあります。でも、それを待ち続けるだけでは、時間だけが過ぎていくことになりかねません。
検索端末に張り付いているわけにもいきませんし。

まずはこのことを知った上で、「どう動くか」を考えることが大切だと思います。

求人票に潜む「隠れワード」を知っておこう

ハローワークで求人票を見るとき、言葉の表面だけをつらつら見ていると、大事なことを見落とすことがあります。

以前ハローワークで仕事をしたことのある友人に教えてもらった、実際によく見かける表現と、その「裏側」をご紹介します。

「アットホームな職場」「和気あいあい」

なんだかとても環境が良さそうな言葉ですが、これが使われているのは家族経営の小さな会社であることが多いようです。

たとえばこんなケースがあります。「事務スタッフ」として採用されたのに、実際の仕事はお茶出し、トイレ掃除、社長の奥さんからの買い出し依頼……。PC作業は一日のうち半分以下で、あとはいわゆる「何でも屋さん」状態。「こんなはずじゃなかった」と思っても、小さな職場では言い出しにくいことも多いようです。

「その他付随する業務」

一見するとごく当たり前の文言に見えますが、これは「事務以外のことも何でもやってもらいます」という意味です。具体的に何をするのかは、入ってみるまでわかりません。

「ノルマなし(目標はあります)」

これは要注意です。実態はテレアポ、つまり見知らぬ方への営業電話が仕事であることが多いです。「ノルマ」という言葉を使わないだけで、実際には件数の目標が設定されていて、達成できないと居心地が悪くなっていきます。
電話口で怒鳴られたり、話の途中で切られたりすることも日常的で、精神的にかなり消耗する仕事です。

時給が最低賃金ギリギリ

「事務職なのに、この時給?」と感じたら、それは「誰もやりたがらない理由がある」からかもしれません。

駅から遠い、バスで20分

通勤のしやすさは、長く働き続けるうえで意外と大きな条件です。晴れた日はよくても、梅雨の時期、夏の炎天下、冬の寒い朝も毎日続けられるかどうか。立地は侮れません。

求人票を見るとき、「なぜこの求人が時間の経った今も残っているのか」を少し考えてみてください。それだけで、自分に合わない仕事に就いてしまう確率がぐっと下がります。

「事務」という名前に騙されないこと

もうひとつ、気をつけていただきたいことがあります。

「事務」という言葉は、実は非常に幅広く使われています。

たとえば「営業事務補助」として募集されていた仕事に応募した方のお話を聞いたことがあります。面接では「サポート業務が中心です」と説明されたのですが、詳しく聞いていくと、顧客への電話フォローが業務のかなりの割合を占めることがわかりました。数字の目標もあり、達成できない月は肩身が狭くなる雰囲気だったそうです。

「事務をしたかったのに、気づいたら営業の仕事になっていた」というのは、決して珍しくない話です。

求人票の「職種名」だけでなく、「業務内容」の欄をじっくり読むこと。そして少しでも疑問に思ったことは、遠慮せず問い合わせること。それが後悔しないために必要なことだと思います。

視野を広げると「穴場」が見えてくる

「一般事務」の競争が厳しいなら、事務職でも別の切り口から探してみるのはどうでしょうか。

実は、業界を少しずらすだけで、ぐっと採用されやすくなる職種があるといいます。

調剤薬局の事務補助

患者さんの受付や処方箋の確認補助、手帳の管理などが主な業務です。清潔な環境で、ほぼ座って働けます。医療事務の資格があると有利ですが、未経験でも募集しているところがあります。患者さんと丁寧に接することが得意な方に向いています。

介護施設の事務

介護の現場ではなく、あくまで「事務スタッフ」としての役割です。電話対応、備品の発注、来客の受け付けなどが中心で、体力的な負担は少なめです。落ち着いた物腰で丁寧に対応できる60代の方が、むしろ歓迎されることがあります。

大学・学校の事務室

入試期や年度の切り替わりなど、繁忙期に絞った短期の案件が出ることがあります。落ち着いた雰囲気の中で働けますし、学校という環境は比較的穏やかです。短期でもいい、まず働いてみたいという方にも向いています。

マンションコンシェルジュ

高級マンションの受付として、住民の方への対応や来客の案内などを担当します。上品で落ち着いた接客が求められるため、人生経験を積んだシニア世代の雰囲気が、むしろ強みになります。

コールセンター(受信のみ)

通販の注文受付や案内窓口など、かかってくる電話に対応する仕事です。発信(テレアポ)とはまったく異なり、精神的なストレスは比較的少なめです。マニュアルが整っていることが多く、未経験でも入りやすい職種のひとつです。

「一般事務」にこだわっていたときには見えなかった求人が、視野を少し広げるだけで見えてきます。

ハローワークの窓口は「使い方」が大切

ハローワークといえば、検索端末でひたすら求人を探すイメージがあるかもしれません。でも実は、窓口での「相談の仕方」こそが大事です。

私がハローワークで出会った、ある60代の女性が、こんな経験をされたそうです。

最初は「事務職だけを探してください」と窓口で伝えていたそうですが、なかなか良い求人に出会えなかった。そこで担当の方に相談の仕方を変えてみたのです。

「事務が第一希望なのですが、座ってできる軽作業や検品なども検討しています」

するとその担当者が、検索端末には出ていなかった案件を教えてくれたそうです。工場でのラベル貼りや部品の確認作業は「軽作業」に分類されているため、「事務」で検索しても出てきません。でも実際には、ほぼ座って行う仕事だったのです。

「座り仕事」という軸で伝えることで、選択肢が広がることがあります。

また、多くのハローワークには「生涯現役支援窓口」などの名称で、60代専用の相談コーナーが設けられています。ここの相談員の方は、地域の企業と直接やり取りしていることが多く、「60代の女性が実際に活躍しているか」「職場の雰囲気はどうか」といった、求人票には書けない情報を持っていることがあります。

「この求人、60代の女性は実際に働いていますか?」と率直に聞いてみることも、ひとつの方法です。

さらに、窓口に行くときは履歴書や職務経歴書を持参することをおすすめします。「何ができるか」が明確に伝わると、相談員の方も「この人にはこの案件が合うかもしれない」と考えてくれるようになります。

ハローワークだけに絞らない「二刀流」のすすめ

正直に言うと、ハローワーク一本だけで納得のいく仕事を見つけるのは、かなり時間がかかることがあります。

理由のひとつは、条件の良い事務職ほど、企業が採用の手間を省くために派遣会社を通して募集することが多いからです。つまり、ハローワークの求人票には出てこない「質の良い事務職」が、派遣会社の方にある、ということが実際にあるのです。

だからこそ、ハローワークで地元の求人を探しながら、並行して派遣会社にも登録しておく「二刀流」のスタイルが有効です。

派遣会社に登録するとき、60代の私たちが意識したいアピールのポイントがあります。

PCスキルは具体的に伝える

「パソコンは一通りできます」ではなく、「Excelで表の管理や集計ができます」「Wordで案内文書を作成できます」など、実務に即した言葉で話すことが大切です。登録時にタイピングテストがある会社も多いので、事前に少し練習しておくと安心です。

長年の経験をコミュニケーション能力としてアピールする

丁寧な言葉遣い、電話対応、来客への対応。これは20代・30代にはない、60代ならではの強みです。介護施設やマンションコンシェルジュなどでは、「落ち着いた物腰」が特に歓迎されます。

職種の幅を広げる意思を伝える

「一般事務のみ」にこだわりすぎず、調剤薬局や介護施設、学校の事務なども検討していると伝えると、紹介してもらえる案件の数が増えます。

また、1社だけでなく複数の派遣会社に登録しておくことも大切です。会社によって得意な業界が違いますし、1社では紹介が来なくても、別の会社から声がかかることがあります。

不採用が続いても、あなたの価値が低いわけではない

仕事探しをしていると、不採用の通知が続く時期があります。

そんなとき、「やっぱり60代では難しいのか」と落ち込んでしまうことがあるかもしれません。

でも、こう考えてみてください。

事務職の求人倍率は0.3倍台です。つまり、どんなに優秀な方でも、3人に2人は「選ばれない」計算になります。不採用が続くのは、あなたの能力や価値の問題ではなく、そもそもの枠が少なすぎるからかもしれません。

ハローワークで不採用通知が続くとしたら、それは「その場所にちょうど合う求人がなかっただけ」という可能性が大いにあります。

視野を広げること。窓口を賢く使うこと。派遣会社も活用すること。

方法はひとつではありません。少し立ち止まって、「探し方」を変えてみることが、次の扉を開くきっかけになることがあります。

まとめ|「心穏やかに働ける場所」を諦めないために

60代女性の事務職探しは、確かに簡単ではありません。
それは私も日々の就活の中で痛いように感じています。
でも、方法を変えればきっと道は広がります。

求人票の「隠れワード」を見抜くこと。
「一般事務」以外の穴場職種に目を向けること。
ハローワークの窓口を賢く活用すること。
そして派遣会社との「二刀流」で選択肢を広げること。

自分を安売りしなくていいのです。条件の悪い職場で無理をしなくていいのです。

長年働いてきた経験と、丁寧に物事に向き合う姿勢は、60代の確かな財産です。

心穏やかに、自分らしく働ける場所は、きっとあります。

焦らず、でも諦めず。自分のペースで探し続けていきましょう。

私も今回の相談で、3か所応募先を決め、昨日応募書類を郵送しました。
また、同時に派遣会社で仕事を探しています。
さらに別の求人情報から1件応募をしてみました。
結果はどうであれ、とにかく前に進むことにしています。
応募しないことには始まらないからです。

次は60代を対象に講座が開催されるので、そちらに参加して、改めて求人の動向を探り、履歴書や職務経歴書なども見ていただこうと思います。