あの後、全力疾走の慧について行き、なんとか授業に間に合った……というより自習だった。



「ぅがぁぁ。あんなに走らなくても良かったのに。」

息切れ一つなく文句を言う慧の横で、かなり息切れ中の私。


多分…産まれてきた時から造りが違うんだと思う。




「プリントとかやらない!!
絶対やらない!!」

そう呟いている慧の前には自習プリント3枚。


これをこの授業中にやらなくてはいけないらしいが、やる人は居ないだろう。



実際それを解いている生徒の数は、ほぼ0に近く教室は賑わっている。



私のクラスは、どちらかというと体育会系が多い。


それが故に、勉強をする生徒も出来る生徒も少ない。


因みに、慧はソフトボール部で、真衣はテニス部、私は美術部。




慧に合わせて走るんじゃなかった…。

追加の飴を含みながら、プリントをパラパラ捲る。




そういえば、さっきの男子……誰だったんだろう?


結局走って来たため、話もしていない。





明るい茶髪で声が低くて、見た目は良いけど、目つきが鋭く怖そうな人。


私が関わり合わないタイプの1つ。




きっと今後とも話をする事もないだろう、きっと。






それよりも私が会いたいのは、

傘を貸してくれた君
あ。あれって、G組の「黒島 諺(クロジマ ゲン)」だ。

アタシの目は黒島を捕らえたまま動かない。



ちょっとした品定め?

なんかコイツ、サエの事が気に入ってる。て気がするんだよね、野生の感で。

だってチラチラ サエの事見てるし……ムカつく。



……うーん。
女子が騒ぐだけのルックスはある。残念ながらね。


格好良い分類にだな。
小川と並んだ姿なんて、かなりの美男コンビだ。


けど、やっぱり目つき悪いなぁ。

ついでに、髪も茶髪だし近寄りがたいオーラがある。



あれだ。パッと見ヤンキーだ。


これがあるから、女子は遠巻きでしかコイツの事を見れないみたいだけど。



……あー。でも。
アタシには彼氏居るし。

西野の方がアタシ好み。



そういえば、今日西野とデートの約束してんだよね。

楽しみだなー。
格ゲーやんの久しぶり。

マイも意外と強いんだよね。
愛しの弟とよくやってるらしいから…

(品定め脱線中)




…ん??何か甘い香りがする。


周りを見ると、前では小川と黒島が密会してて…(長いなコイツ等)


横ではサエが飴を舐めながら、ボーっと時計を見ている。



美味しそうだなぁ。と思いつつ同じように時計を見ると、14分。


アタシの目はパチリパチリと瞬きを繰り返した。

だって授業開始は15分。


どう考えたって……
<font size=3>「遅刻じゃん!!!」</font>


アタシがそう叫ぶと、目の端で男子2人がビクつくのが写った。


が気にしてられない。


次の授業の担任は口うるさいオバサンなんだ。




「そろそろ行こっか。」

隣でサエが言うのに大きく頷くと、後ろの2人に、

「じゃ、そうゆう事で!!」

と言い走り出した。




授業開始まで後一分。



隣は飴を含んだまま
あの日から、2週間程が経った。


変わった事といえば、私こと沼津 紗英と小川君が"友達"になった事だろうか。


暇な時に話をできる関係を"友達"というし、小川君も「俺ら友達♪」と言っていたから多分そうだ。



ま。暇な時、休み時間に話をするといっても、ものの3分もかからないし、小川君が"ゲング"と言う人の話をするだけなのだが…。


話によるとゲング君は、同じ学年で見た目は怖く、でもホントは優しい不器用な人らしいのだが、誰だか分からない。



だから、話を聞いて、ゲング君が誰なのか当てる"ゲーム"をしてる。


誰かに教えてもらうのはダメなので、かなり難しい。



「ゲング」なんて名前の人聞いた事無いし、私は密かにゲング君は小川君の空想の友達だと思っている。






「紗英―。最近、小川と話してるんだって?
アタシ聞いてないよー。」

理科の移動教室の帰り道、メグミがイジケたように言った。


彼女の隣にマイの姿は無い。



今日、マイは弟が風邪を引いたらしく看病の為休みだ。


『弟が風邪引いたから、今日は学校休んで1日看病する。
ノートは宜しく(`´ゞ』

とメールが朝届いていた。


マイの弟は小5で可愛くて可愛くて仕方が無いらしい。


一人っ子のアタシやメグミには、よく分からないが……一般的に生意気な年頃なんじゃないんだろうか?




「黙ってるつもりじゃなかったんだけど…ごめんね?」


ホントに別に黙ってるつもりは無かった。

ただ、小川君と会う時は何故かいつも私独りだったから。


そう言うと、メグミは「まぁ。いいか(特に何も無いなら)。」と軽く終わらせてくれた。



メグミのこういうサッパリとした所が私は好きなんだと思う。


とそこに、

「紗英ちゃーん。」

と叫びながら、例の小川君が走って来た。



彼は目の前まで来ると、

「ゲング知らない?」

とキョロキョロしながら聞いてきた。


「うわ…。久々に小川見た。」

とボソッと呟くメグミを横に、

(あれから、小川君の事が嫌いになったらしい。
理由は分かんないけど。)


「"ゲング"君が誰なのか、私まだ知らないよ?」

と笑って答えた。



心の中では、"ゲング"君って実際に居たんだ。と軽く驚いたけれど。



小川君は、「あ。そうだっけ~?」なんて笑っている。と、



「おい、サトル。
何、先に行ってんだよ。」

小川君の後ろの方から声がした。

男性特有の低い声。




小川君はクルリと振り返り、

「ゲング~。
何処行ってたんだよ。」

と言っている。



振り向く寸前、彼の口はニヤリと弧をかいていた気がする。

気のせいかもしれないけど。



「あ。茶髪の人だ。」

メグミが前を見てそう言った。


私も小川君の横から"ゲング"君を見ると、彼と目があった。


彼は鋭い目つきからギョッとしたような顔つきに変わった。



「おい、サトル!!」