「で。話って何なの?」

アタシの声が階段に響く。

今は昼食時だから、人影はない。




1日ぶりに学校に来たら、メグは部活の大会で休み。

紗英は購買にパンを買いに行くと言って居なくなった。



暇だったから、昨日の分のノート写してたら、サトルに急に呼び出された。




紗英に何も言わずに来ちゃったけど、大丈夫かな…


早く戻ってあげたい。






「話っていうのはさ……。
俺の…友達の事なんだけど。」


サトルが躊躇うように口を開いた。



「同じクラスで、"黒島"て言うんだけど…茶髪で目つき悪い奴ね。ソイツがさ……。」

そこで言葉を切った。



言うべきかどうか迷っているらしい。







アタシはその間にピンときた。


あぁ。そうゆう事か。

多分、前に言ってた紗英と一緒に遊びたい友達は"黒島"なんだろう。


でも、メグもアタシもガードが固いから、協力してもらおうって事か。




「紗英が関係あるんでしょ?」

アタシの一言にサトルがピクリと反応する。



「…流石、小学生からの付き合いだな。お見通しってわけか。」

サトルが苦笑し、アタシは頷く。


「なら……、話は早い。
黒島がさ、紗英ちゃんに……惚れてるんだ、本気で。
でもアイツ、社交的じゃないし協力が必要なんだ。」

そこでサトルは一息つくと、



「頼む!!この恋、応援してやってくれ!!」

と手を合わせながら頭を下げた。







そこまで大切な友達なんだ……。


アタシは、手を合わせるサトルを見ながら思った。





サトルは社交的だけど、どこか一線をひいている所がある。


広く浅い付き合いばかりで、彼女ができる事もなかったから、軽い奴だと思われてきた。



だから、ここまで誰かの為に何かをする姿は初めて見た。






「そんなに……黒島の事が大切なの?」

ポソリと言った言葉にサトルは顔をあげた。



「あぁ。凄く大切な奴だ。
不器用だけど誰よりも優しくて……誰よりも…信頼できる。」


サトルの顔は、いつもの愛想笑いじゃなかった。

目が真剣だ。…嘘はついてない。




色んな人と付き合ってきたサトルだからこそ、人を見る目はちゃんとある。



見た目はチャライけど、芯はしっかりしてて……だからアタシはコイツと友達になったんだ。


サトルが認めた相手なら……



「…協力するよ。」
「ねぇ…何があったの?
アタシが部活の大会で休んでた昨日の内に。」


そう聞いても、紗英は

「いや。特に何もなかったよ?
ね、小川くん。」

と言うだけ。



うん。紗英には…変わったことなし。いつも通りの可愛いアタシの紗英。




ただ、そのの隣にずっと居るその2人は何?


「何も無い無い。」とか楽しそうに答える小川を殴りたくなる衝動に駆られる。ムカつく



何隣に居座っちゃってんの??
そこアタシの場所なんですけど。




「サトル、メグの言うとおりにすれば?
アタシは別に良いけどさ……目線」


ほら。と言う真衣の横目の先には、この珍しい組み合わせをチラチラと見ているクラスメイトの数人。



紗英の隣に2人が居座ってから、かれこれ30分…。




アタシ達が通う学校は高校なのだけれど、大学のような単位を取れば進級できる仕組みになっている。



その為、アタシと紗英とメグが授業を取っていない時間は教室でのんびり過ごしている。



3人で……だ。
この小川 哲と黒島 諺を除いての3人で。





「別にさぁ、クラスが違ってても仲良くしたいわけ。
折角、皆暇なんだからさぁー。
な、ゲング。」

そう小川は、にこやかに言い、隣に居る…ていうか寝てる黒島は


「あぁ。」
とだけ返事をする。



あぁ。起きてたんだ。
てか、コイツはホントに小川の友達か!?ぶっきらぼう過ぎ…





「ねぇ。
紗英もそう思うよね?」


隣の隣にいる紗英に聞けば…うん。分かってたけどさ…

「そう?大丈夫でしょ…まだ時間あるし。
それに友達増えるのは嬉しいし。」

との返事。



あぁ。純粋な笑顔が可愛いなぁ。



「鈍感だね、紗英ちゃんは」

ぼそりと小川が呟く。





分かってるんなら帰ってくれれば良いのに!!!





何でマイは普通に小川達を受け入れてるの!!?





バカには理解できない!!
せっかくチャンスを作ってやったのに…


俺の今の心情はこの一言に限る。



だってそうだろ?

ゲングがやっと気になる奴が出来たって言うから、手伝ってやろうと思ったんだ。


コイツの事を少しずつその子に話していって、気になり始めたところで接触させる……仲良くなって、次は皆で遊びに行って、その後は………


完璧なシナリオだろ?



ゲングは見た目は怖いけど格好いいし、ホントは良い奴だから大丈夫だと思ったんだ。




でも…………
実際のところ、この案は失敗した。


遊びに誘おうとしたら、その子の友達に邪魔されて、めげずに接触させてみたらコイツがかなりテンパっちゃって話どころじゃない。



どこで間違えたんだ?




「上手くいくはずだったんだ。
ごめん。」


隣で静かに怒りを鎮めているゲングに謝罪をした。


かれこれこの言葉は何度発しているだろう。

かなりの回数、繰り返しているはずだ。



しかし、いっこうにゲングの表情は変わらない。




「……お前が本気で悪いと思ってるのは分かってる。
分かってるけどさ……」


あれはないだろ。
ようやく口を開いて言ったのがこれだった。



やっぱりゲングは優しい。


彼女こと紗英ちゃんに微妙な印象を持たれかもしれないのに、俺に対しての嫌みは殆ど無い。

黙りこくられるのは辛かったが。



それはさて置き、今後の挽回を考えるべきだ。




あの紗英ちゃんの事だから、この間の事なんて直ぐ忘れちまう。



やっぱりもう一度接触させた方が……あぁ…でもなぁ……





そう悩む俺に目もくれずゲングは一言、

「ちゃんと話がしたかった…。」

と呟いた。




やっぱりコイツの一番はこれだ。会わせるべき……だな…




「なぁ、ゲング。
紗英ちゃんに会いに行かないか?」


俺がそう尋ねると、ゲングは恋する乙女のように(実際恋してるのだが)ハァ。と溜め息をついた。


「……無理だ。
目の前にしたら…話なんてロクに出来ない。」




……お前って
<font size=3>そんなにヘタレだったか?!</font>



俺は思わず叫びそうになった。


ゲングは見た目と違ってナイーブだ。傷つきやすく脆い。


まったく男らしく当たっていけばいいものを。





「じゃあ今回はいいとして……今後何か行動を起こさないと忘れられるからな!!」


俺がそう言うとゲングは肩を震わせ曖昧な返事をした。



忘れさられるのは嫌なようだ。


だったら、攻めていけば良いんだ。

ああいう女の子は攻めに弱いというのに。


ゲングは見た目が良いだけあって、余計に勿体無い。



何を臆することがある!!?








まったく


外見と中身は違うもんだ