似てる…

目が合った時に微笑んでくれたゲング君の顔は、

傘を貸してくれた彼に酷似していた。




フードで顔の大半を隠れている上に、雨の音で声のトーンさえも分からなかったけど……


多分、同一人物だ。



こんなに身近に居るのなら、ちゃんと調べておけば良かった。





でも、それよりも………

…顔が熱いよ~ッッ



目の前で格好良いと噂されてる人が笑ったんだもん。


男慣れしてない私にとっては、起爆剤。あと少し長く見つめ合ってたら、どうなることか…





ヤバい、ヤバい。

取りあえず顔色隠さないと。




とっさに膝の上に置いてある鞄を探る動作をした。


ポーチの中を探って飴を1つ取り出し、口に含みコロコロと転がしながら味わう。




…あぁ。少し落ち着いたかも。
胸の高鳴りも治まってきてる…し…





顔をあげてみると、小川君と目があった。


ニコリ…いや……ニヤリとした笑みを浮かべている。





……見られてた……かも。




顔の赤らみが戻ってきた。
俺は…何やってるんだろう。

うつ伏せになりながら、何度となく思う。



今、横にはたのしそうに話す小川達の姿がある。

勿論その中には、沼津の姿もあるわけで羨ましくて仕方ない。



だけど………、俺は小川みたいに社交的じゃない。



その上、何をしようかと迷った末に「寝たフリ」という手に出てしまった……。





今日でこの五人組で過ごすようになって3日目。


何も進展はないし…あ、いや…小川と沼津が仲良くなって……るな。

悔しい。女たらしの小川め。





上では穏やかに会話が進む。

「ゲング寝ちゃったなぁ。」とか小川が言っている。


俺だって寝たくて寝たフリしてるわけじゃないんだッッ。




…と、

「いい加減に、ここに来る理由を教えてよ!
紗英の隣はアタシの場所なんだから。」



急な大声に辺りは一瞬静まった。




顔をあげてみると、どうやら今声をあげたのは山本らしい。


俺たちが来てから、沼津さんとの時間が減って苛々が募ったようだ。




沼津さんは、オロオロしちゃってる………可愛いなぁ←





視線を感じて見てみると、小川と目があった。



『どうするんだ?』
と目が語っている。


俺は嘘をつくのが上手くないから、説明してる内に気持ちがバレてしまうだろうし、面倒臭い。


『話作っといて』

目で答えると、小川は見透かしていたように、直ぐに説明をし始めた。




俺が言うわけが無い。と踏んでいたようだ。
嬉しいような悲しいような。




なんとなしに説明を聞いていたら、沼津さんと目があった。


瞳でキョドっている事がわかる。俺が怖いのか……。やっぱり見た目は大切かも…な…




目線はまだ交わったまま。


俺は小川の第2の教えである、「好きな娘と目があったら、とりあず笑顔」を実行した。





……が、普段無愛想な俺が愛想笑いが上手いわけもなかった。
口だけが弧をえがく。




ヤバい。恥ずかしいっ。
慣れないことはするもんじゃないって、本当に。


顔の赤らみを隠すべく、俺は横を向いた。



ちょうどその先にあったカレンダーは7月を指していた。




もうすぐ夏休みに入る。


俺はそれまでに、何か変われているだろうか……
「紗英。一人にしちゃって、ごめんね。」

教室に帰ってきた真衣の隣には小川君の姿があった。


最近、小川君と会う機会が増えてる。絶対に。





「ちょーっと話があるんだけど、いい?」

小川君が爽やかスマイルを出しながら尋ねた。



私の目の前には、まだ菓子パンが一つある。

食べながらでも話が聞けるし、いいかな。



「うん。大丈夫だよ。」


すでに近くにあった椅子に座ろうとしている小川君に言った。

…了解とる必要ないじゃん。




「紗英ちゃんさ…。
ゲングの事覚えてる?」

小川君は目があった女の子に微笑みながら話始めた。


微妙な距離から、「サトが居る」「小川君がぁ…」などの黄色い声が聞こえる。流石、美男子。




「でさ。アイツ…内向的なんだ。
特に女子に対して。」

小川君は、やれやれとため息をつく。


「でもさ、そこがクールで格好いいって言う女子も居て、告白とかもされてるんだけど、アイツ上手く断れなくて……自称彼女が数名ほど……ね。」


乾いた笑いを零す小川君の横で、「アタシらのクラスにも居るんだよ。」と真衣が言う。




目で合図した先に居るのは、髪をクルンクルンに巻いたメイク中の女子。

目があうと、あからさまに逸らされた。何か…したっけ?





「そこでお願いなんだけど、ゲングと友達になってくれない?
アイツも女子に馴れれば、そうゆう事もなくなるだろうし。」


「人助けだと思って。」と手を合わせる小川君を見ると、断るのが悪い気がしてくる。







でも……、私も男子が苦手。
"友達"なんて、名前だけの関係になってしまうかもしれない。


ましてや、茶髪でヤンキーだとか噂されてる人なんて………怖い。





「他の子じゃダメなの?」と聞けば、
「他の子はゲングに色目使うからダメ。」との事。



私は、ゲング君の事好きでも何ともないし、丁度良い。てことか……。何か悲しい。





どうしようかと、真衣を見てみると、

「アタシも黒島の友達になる事にしたし、紗英の"男が苦手"も治す良い機会になるんじゃない?」

と優しく微笑んだ。






うん。真衣も一緒なら大丈夫かも。





「頑張ってみる。」

パンを飲み込みながら、そう答えると小川君は満面の笑みで「ありがと。」と言った。