Pokemon QuestⅠ:夢の中の魔道士~The beautiful World~
嘴にエイパムを、両足でそれぞれエテボースを捕まえたまま、ファルコは飛行を続けていた。
だが、悠々と飛んでいたわけではない。なにせ、自分と同じくらいの体重の相手を2匹も足に抱えている上に、
嘴にも10kg以上の重さの相手を銜えているのである。怒りに任せてこうしてきたものの、そろそろ限界に達そうとしていた。
「離せっ、離せったら!」
足に挟まれている太っちょのエテボースがそう言って暴れようとしたのを止めたのは、
もう一方で挟まれている仲間、面長のエテボースだった。
「や、やめましょうよ・・・こんなところで離されたら私たち、地上へ真っ逆さまですよ!
それに、ただでさえこのフラフラとした飛行状態・・・こちらから言わなくても、すぐに離されちゃうかもしれませんよ」
太っちょは反論してこう言う。
「そりゃそうだが・・・このままどこかへ連れて行かれて、そこでこのムクホークの餌食となるよりは、
いっそここで落とされた方が、眼下に広がる木々がクッションになるかもしれねぇし、助かるんじゃねえのかよ?」
「なるほど、それは名案ですね!偉イッ!!流石ご長男!!」
面長は目をきらきら輝かせながらそう言った。二人でいるときはいつも自分のことを馬鹿にしてばかりなのに、
こんなときだけ都合のいいヤツ・・・。太っちょにはそう思えなくもなかったが、ここは一致団結してなんとかやるしかない。
「よし、じゃあ俺がせーのって言ったら体を揺らすんだぞ!いいな、いくぜ!・・・せーのっ!」
が、二匹の初めての共同作業が行われる直前に、彼らの体はファルコから離れた。
彼らの行動を前もって感じ取ったファルコが、先手を打って彼らを離したのだった。
しかし、これで助かる!そう思ったエテボースたちだったが、
「ぎゃ、ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁあ!!」
「ひょえぇぇええぇぇえええぇえええ!!」
眼下の世界に目を向け、彼らは絶叫した。あろうことか、そこだけ木が無く、ぽっかりと開けた空間だったのだ。
そこは森の出口に近く、都会からやってくるワンリキーたちが、材木に使う木を伐採している場所だった。
・・・なんと不運なのだろう。
エテボースたちの悲鳴に驚いた鳥ポケモンたちが、一斉に羽ばたき始める。
まるで森そのものがざわめいているようだ。下で作業中だったワンリキーたちも、
わけがわからなくてうろたえるばかりだ。落ちてくるエテボースたちを受け止めてあげようだなんて、
気の利いたことを考えるやつは一匹もいない。
エテボースたちの眼前には、地面が迫る。彼らの頭の中では、今までの記憶が、走馬灯のように駆け巡っていった。
一昨日食べたモモンの実の甘さ、昨日食べたナナシの実のすっぱさ、
そして今日食べられなかったオボンの実・・・全部、食べ物のことばかりであったが。
と、そのときだった。
エテボースたちの落下が、突然止まった。一瞬何が起きたのか、どちらのエテボースもわからなかった。
太っちょが上を見上げると、ピンと張った尻尾の先を、誰かが掴んでいるのだった。
漆黒の羽が、太陽の光を受けてきらきらと輝く。そのポケモンは、
ムクホークよりもだいぶ小さい体ながら、しっかりとエテボースたちを支えようとしていた。
「・・・お前っ、さっきのヤミカラス!?」
太っちょがそう叫ぶのを、面長は冗談かと思った。あのヤミカラスか?自分たちが苛めた、
あのみすぼらしいヤミカラスだというのか?しかし今自分たちを掴んでいるヤミカラスは、
ほんの数時間前に会ったヤミカラスとは、全然違う雰囲気を持っていた。
ヤミカラスはゆっくりと下降していき、エテボースたちを地面に下ろした。
それを見ていた作業員のワンリキーたちは感激してヤミカラスに拍手を送るが、
ヤミカラスはそれを一瞥しただけで、すぐさま飛び立った。まだ、仕事は終わっていないのだ。
ヤミカラスのその姿には、猛々しささえ感じさせるものがあった。この数時間で、彼に一体何が起きたというのだろうか。
あとに残されたエテボースの一匹、太っちょが、それを見てポツリとこう呟いた。
「あいつ・・・カッコイイじゃねぇか」
※
先程エテボースたちを落としたことを、暴君ファルコは何とも思ってはいなかった。
丁度下に何も無い所へ落としたものだから、無事では済まされないだろう。
例え運悪く死んだとしても、それが我輩の宝を盗んだ罰だということだ。
それよりも、今まだ嘴に銜えているエイパムはどうしてくれよう・・・
こいつも一緒に落としてもよかったが、まだ他に面白い刑罰の仕方があるかもしれない。
一度旋回して、自分の住処へ戻ってみるか。
そう思ってくるりと向きを変えた、そのときだった。後ろから迫って来ていたヤミカラスと目が合ったのだ。
なぜ、あの臆病者が自分を追かけてきていたのか。突然のことで驚いたファルコであったが、
すぐ鋭い目つきに戻して、ヤミカラスを威嚇した。
しかし、それで怯むヤミカラスではなかった。じっとファルコを見据え、対峙し続ける。まさか、
この我輩と勝負しようという気ではあるまいな?嘴でエイパムを銜えたまま、暴君はニヤリと笑ってみせる。
先手必勝!ファルコは、翼を大きく広げ、ヤミカラスに向かっていった。彼のその大きな翼で弾かれれば、
ヤミカラスのような小さなポケモンならビリヤード玉のように簡単に飛ばされていってしまうに違いない。
しかしヤミカラスは高く飛び上がってその攻撃をかわすと、急降下してファルコへの攻撃を試みた。
ファルコも素早くそれをかわそうとするが、そのとき突然、口に銜えたままのエイパムが、
ファルコの体を手で引っ掻き始めた。エイパムのか弱い手で引っ掻かれても、それほど大した痛みは感じない。
しかし突然のことに気が紛れてしまったファルコは、ヤミカラスによる攻撃をマトモに受けてしまうことになる。
バシッ!
ヤミカラスの小さな翼が、暴君の額を強打する。そこはなんと、ムクホークの急所であった。
「ガハッ!」
大きく呻いて、ファルコは嘴に銜えていたエイパムを落としてしまった。が、
ヤミカラスはそれを素早くキャッチすると、地上へ向かった。
そこでは、エテボースやワンリキーたちが手を振って待っていた。地に降り立つヤミカラスの元へ、彼らは駆け寄った。
「イヤーッ!よくやるな、お前さん!」
「ホント、こちとらシビレたぜ!」
ワンリキーたちは思い思いの感想を述べる。しかし、ヤミカラスの表情は固いままだった。
まだ終わっていないことが、ヤミカラスにはわかっていたのである。
「・・・ヤァーミィーカァーラァースゥーッ・・・!キサマ、完全に我輩を怒らせたなぁーっ!!」
上空から響く暴君の声に、たちまちその場にいる全ての作業員たちが体を縮めた。
ヤミカラスは、キッと空の敵を見据える。
「・・・まっ、まだ、戦うつもりですか?」
面長のエテボースの台詞に、ヤミカラスは頷き、応えた。
そんなヤミカラスに、太っちょのエテボースは手で何かを差し出した。木の実だった。
「力が強くなる、チイラの実だ。俺らを助けてくれたお礼さ。これ、食べてから行けよ」
数時間前まで、ヤミカラスにマトマの実をぶつけて苛めてきたエテボースが、今、
ヤミカラスに贈り物をしているのだった。ヤミカラスは、それを口に放り込み、食べた。みるみる、力が湧いてくる。
同時に、何だか目頭も熱くなってきた。・・・いや、今泣いたりしているときではない。
パッと翼で涙を拭き取り、こう言った。
「行ってくるでござんす」
そして翼を広げ、再び大空へ羽ばたいていったのだった。
彼のそのちっぽけな背には今、孤独や寂しさではない、感謝や期待といった、
溢れるほど沢山の暖かい感情が背負われていた。
彼はもう、ひとりぼっちではなかった。
