部屋に入ると彼女は鞄からケータイを取り出し、到着したと店に知らせる報告電話を済ませた。

いきなり襲うのは非紳士的行為だし(まず俺にそんな度胸はない)とりあえず彼女を座らせ

「外、暑かったでしょ?これ飲んで。」

とキンキンに冷えた麦茶を差し出した。

「これは…何?」

彼女は不思議そうにコップの中身をまじまじと見る。

「何って、お茶だけど?」

「…おちゃ…?」

不思議ちゃんキャラは注文してないんだが…。

一向に飲む気配がない彼女に、俺は他愛のない話をふった。

「アヤミちゃん今いくつ?」

「え?あ…21歳です。」

「へぇ。この仕事始めてどの位経つの?」

「あ…まだ半年…です…。」

「ふぅん…。」

「…。」

「…。」

会話終了。

なんだこの子?
デリヘル嬢って口が達者なんじゃねぇの?
…口が達者ってのはおしゃべりのことな。
おしゃぶりが達者なのは当然だ。たぶん。

「…。」

静寂な空間に蝉の鳴き声と扇風機が懸命に稼働する音がよく響く。

「…じゃあそろそろ2人で一緒にシャワーでも…」

「あのっ!」

彼女は俺の要望を拒否するかのように声を大きく出した。

「え…?なに?一緒は嫌…だった…?」

「アキトさん、異星人はいると思いますか?」

は?

「アキトさん、異星人はいると思いますか?」

いや…
二度も言わんでも…

「え…異星人って…宇宙人…のこと?火星人とか…?」

「火星に生物は存在しないわ。細胞核を持つ生命体が生存できる環境でないもの。」

おいおい。
不思議ちゃんからオカルトちゃんにキャラチェンジしたぞ。
何だこの娘は?

「…!あ…すみません…。」

俺は彼女に不審者を見るような冷ややかな視線を送っていたのだろう。
彼女は居たたまれない空気を察し謝った。

「…ではそろそろお風呂に行きましょうか?」

おっ
どうやら俺の要望に応えてくれるようだ。

俺はヘルス嬢が来るまえに、『淫乱女子教師マユミの秘密』で三回抜いた。

高い金払うんだから長持ちさせなきゃな。
定石通りだぜ。

『ピンポーン♪』

オーソドックスなチャイム音が俺のワンルームマンション(レオパレス)に鳴り響く。

「遂に来た…。」

緊張の生唾を飲み、震える手でドアノブを回し…そして開ける…!

「こんにちは~。」

日本の夏特有の湿った空気が香る。
そしてヘルス嬢と思われる方が輝く笑顔で玄関先に立っていた。

「初めまして。あたし、アヤミと言います。」

アヤミと名乗る嬢はペコリとお辞儀をした。

ロリ顔…?
ではないよな。
まぁ可愛いっちゃ可愛いけど…
巨乳…
だな。
うん。めっちゃでけぇ。

「あの…暑いので部屋に入れてもらってもいいですか?」

あ…!
いかん、いかん。
アヤミさんの容姿に(主に胸)に見とれてた。

「おじゃましま~す。」

俺は彼女を部屋に招き入れた。

~エンジェルランド☆イキイキヘブン~

いかにも…というトップページが俺のウィンドウズ2000に映し出される。

彼女と別れて3ヶ月。
俺の性欲は有珠山噴火の如く、今にもはちきれんばかりだ。

052-991-8981

念のため非通知でその店に電話した。




プルルッ

「はい!エンジェルランド☆イキイキヘブンです!」

ワンコールに満たない速さで愛想の良さげな声の男性が電話に出た。

「あ、もしもし…初めてなんですけど…」

「御新規様ですね?ではお名前、御年齢、電話番号、ご住所をお願いします。」

男はハキハキと話す。

個人情報を風俗店に教えるのは少し怖いけど…

「…波瀬アキトです。波瀬のハは波で、瀬は瀬川瑛子の瀬です。」

「ハセアキト様…はい。では御年齢をお願いします。」

「23歳です。」

「23歳…はい。」

急いでペンを走らせる音が聞こえる。

「では電話番号とご住所をお願いします。」

「はい。080-6970-3369で、住所は名古屋市北区成願寺2-5-4です。」

「………………はい。」

どうやら全ての事項を書き終えたようだ。

「では、どのようなタイプの子をお届けしましょう?」

タイプ…

「えっと…目が大きくて、髪の毛はセミロングの茶髪で…笑うとえくぼができて、声は舌っ足らずで…」

「あの…お客様?」

男は少し困惑した声で話を遮る。

「私が聞いているタイプは、ロリ顔とか巨乳とか…そっちのタイプのことですが?」

あ、そうすか。

別れた彼女の容姿を見ず知らずの男に話しちゃったよ。

「…じゃあロリ顔巨乳で。」

「はい!かしこまりました!すぐそちらへ伺わせます。」

人生初のデリヘルだ。

俺の心臓はDOKI☆DOKI☆と好奇心と性欲の混ざる血を体中に巡らす。

まさかあんな事態に巻き込まれるとは知らずに。