「ちょっと~この期に及んでまだ変な術使うの~?体が動かないんだけど~。」

アヤミは真っ赤に染まった左腕を敵にかざす。
止血する右手も血に染まっている。
こちらから表情は見えないが、きっと苦痛で顔を歪めているだろう。

「アキトくん~早く髪の毛一本と命をわたしにちょうだいよ~。じゃなきゃこの女、出血多量で死んじゃうよ?」

「ア…キ…ト…さん…あたしは…大丈夫…だから…」

彼女が“大丈夫”な状態でないことは一目瞭然だ。
だとしても彼女の代わりに死ぬことは出来ない。

…んなこと誰だってそうだろ!?
18年の命をここで断ち切るわけにはいかねーよ。
ヘタレな俺は彼女が言う“大丈夫”を信じるしかないんだよ…

「ねぇねぇアキトくんってさ~、エルスのくせに軟弱よね~。エルスは戦争大好きな民族なのに~」

ガルバルド星人はケタケタと笑う。

武田も言っていたが、地球人は全員、争いごとが好きだと異星人から見なされているらしい。

その異常なほどの戦闘趣味を多くの異星人が羨んでいる。
と武田は俺に説明をした。

しかし

「…俺は憲法第九条をこよなく愛する、平和ボケした、知恵も学力もない、草食系男子なんだ…」

「はぁ?」

「よって、こんな俺の遺伝子を受け継いだガキを作ったって、きっと俺に似て期待はずれだぜ?」

「…。」

俺の力説(命乞い)に納得したのか、敵は黙り込み沈黙した。

「…残念だったな。奇跡的な精子を持つ俺がこんな欠陥だらけで。」

強気な口調で言うが、実は膝はガクガクと笑っているんだ。

「でもエルスはエルスでしょ~?」

シャキン!
と奴の指先から刃渡り30センチ程の鋭い爪が伸び出した。

「だからとりあえず死んでね♪」

とニコリと笑い、アヤミの金縛り術をかいくぐり俺をめがけ鋭利な爪を振り下ろした。

赤塚クンと合同ライブでとても楽しかったよ。

お客さんから手拍子ももらっちゃって、嬉しいよ。

みんな~愛してるぜ~!!!

「細かく言えばアキトくんの体の一部を採集してから殺すのよ♪ほら、精子データは流出してみんなの手に渡ってるけど、本物のDNAはわたし以外誰も手にしてないでしょ?」

だから髪の毛一本でいいからちょうだい♪

とななみは微笑んで言う。

学校にいる時の可愛い笑顔とは違う、どこか裏を感じる悪魔の微笑みにしか見えない。

「させないわ…」

とアヤミが手をかざした時だった。
物凄い地響きと轟音が轟いた。

「いっっっったぁ~い!!!いきなり何するのよぉ!?」

ワイヤーアクションばりに吹っ飛ばされたななみがムクリと起き上がり、頬を膨らませる。

クッションとなったベニアの本棚が粉砕している。

「もう!これだからコリンは嫌いなのよ!変な術使うし!」

苛立ちを隠せない様子でデニムに付着した木屑を乱暴にはらっている。

あんなにド派手にぶっ飛ばされたってのに余裕綽々そうだ。
並みの人間なら普通、立ってもいられないだろ…。

「ななみさん、ホントの正体を見せたらどう?」

「ホントの正体!?彼氏がいる前で見せられるわけないでしょ!」

ホントの正体?
え?コイツ変身するの?

ていうか俺まだ彼氏なの!?

「キャアッ!!!」

悲鳴を上げたのはアヤミの方だった。
彼女の左腕から赤い鮮血が吹き出すのが見えた。

「アっアヤミ!?」

おびただしく流れ出す血を止血しようとギュッと片方の手で押さえている。
たまらなく痛々しい。

「ていうかコリンくらいなら変身しなくても楽勝に勝てるんですけど~。」

ひざまづく彼女を見下ろし不機嫌そうに言葉を吐いた。

「アキトくん…あたしから…離れないで…!」

離れるも何も、恐怖のあまり足が地面に根を張って一歩も動けない状態です。

情けない…。
我ながら実に情けない…。