皆さん、こんにちは。
長い雨が止んだと思ったら、今度はとんでもない猛暑が襲ってきましたね。
その上四連休はまた雨だというんだから日本の天候は性質が悪い。
最近は就寝時もエアコンをつけっ放しにしている日々ですが、正直言って体調にもメンタルにも悪いですよね……。
さて、今回は前回からの続き、『私がモテてどうすんだ』の実写版を取り上げていきたいと思います。
原作漫画が連載されている中で放送されたTVアニメ版に対し、完結して2年が経過してから公開されたこの実写版。
特撮を除いてなかなか邦画は見ないということと、「実写化」作品ということから普段だったら絶対見ない部類の作品ですが、食わず嫌いも決して褒められたものではないという思いから今回鑑賞して参りました。
今回は先に鑑賞した結論から言いますが、感想としては……
頑張ってはいる!
けどダメ!
という感じになりました。
今回は主にそういうトーンで、それなりに楽しめたアニメ版との比較を踏まえつつ、色々思ったことを挙げていきたいと思います。
・撮影、役者の「頑張り」
まずこの実写版ですが、映像面などで言えば決して稚拙な出来の作品ではないという点に関しては断っておきます。
キャスティングに関しては、イメージに合わないことも多い実写化の中でもかなりアタリの作品です。
ヒロインの芹沼に関しては痩せる「前」と「後」で違う役者さんを当てる二人一役方式を採用しており、痩せる「前」を近年多くのドラマ・映画で活躍している若手女優・富田望生さんが、痩せた「後」をE-girlsのメンバー、山口乃々華さんが演じています。
特に良かったのが、富田望生さんの思わずちょっと引いてしまうぐらいの「興奮する腐女子」の表現と存在感。
本作の監督が脚本を務めた『HIGH&LOW THE WORST』でもかなりドスの利いた演技を見せていましたが、このリアルにいそうな「ちょいブス感」(失礼な言い方かもしれませんが)が芹沼に非常に合っていて、不快感も無く楽しいところでした。
男性陣の俳優さんも基本的に文句なしです。個人的な好みですが七島を『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』の伊藤あさひさんが、四ノ宮を『仮面ライダージオウ』の奥野壮さんが演じていて、それぞれイメージに合致しつつ絡みの多い役ということで、ニチアサファンとしてはなんだか見てるだけで微笑ましくなってくるところでした。
また、「イケメン女子」という実写にするには一番ハードルの高かったであろう二科役には、「ジェンダーレス女子」として近年注目を集めている中山咲月さんが選ばれています。中山さんの二科はもうこの人以外には考えられないというぐらいのハマり具合で、見ていてとても華がありました。
他にも坂口涼太郎さんやざわちんさんなど、脇役に至るまで妙に癖のある俳優さんが置かれているのが印象的で、元々癖の強いキャラクターの多い本作の特徴をよく捉えた配役になっていたと思います。
撮影面では、オープニングのミュージカルシーンや、池袋での実際のアニメイト前の通りでの長回しシーンなど映像表現として色々工夫が凝らされているのが分かる場面が多々ありました。
本編後には撮影裏を見られるNG集などが上映特典として公開され、制作陣に対して「頑張ったんだな……!」と思える背景が見られます。
・ただ、それ以外は…
上のような「頑張り」が感じられるというところもあり、本作についてはあまり悪し様に言いたくないのが僕の正直な気持ちではあります。
ただ、「頑張ってる」と思うからこそ色々言わなきゃいけないこともあるだろ……!というのも、僕の偽らざるスタンスです。
なのではっきり言いますが本作、特に大事になってくる筈のストーリーにかなり問題点が多いです。
その問題点について1つ1つ言及していきたいと思います。
①キャラクターの掘り下げ不足
見ていて一番問題だと思ったのがこれ。
少なくともこの実写版では、メインの5人(芹沼+男性陣4人)が全く魅力的に感じられませんでした。
前回の記事には書きましたが、アニメ版はメインキャラの印象についてかなり気を遣った構成になっています。ただでさえありえないシチュエーションをどうにか納得させるために内面の描写を多く配していますし、全体が絶妙なバランス感覚によって成立していました。
しかしこの実写版、芹沼が個々のメンバーとあまり交流したりしないまま話が進んでいくのです。
アニメの第1話に相当する池袋でのデートシーンでは、4人と映画を観たりする中に腐女子としての地が出ないよう葛藤する下りがあるのですが、この映画だと集合して街に繰り出して間もなくアニメイトが出てきて、4人が口論する姿を見て「リアルなんてクソゲー」と言い放ってしかも勝手に帰るという暴挙に出ています。
僕は映画の方を先に観たので、「なんだこのイカれた連中…」と実写だけにリアルな落胆を覚え、開始10分近くでキャラへの好感度がストップ安になりました。
全体的に本作、アニメだとコメディ調に描けた部分が実写のリアルさでオブラートに包めなくなってしまっているところがあり、芹沼が隠したがっていたBL趣味を勝手にバラす兄など、恐らく原作の時点で存在していた部分すら気になってしまう問題がありました。
②微妙なメインストーリー
男性陣が芹沼のBL趣味を知った後、本作のメインストーリーが始まります。
痩せて美人になった芹沼に対し、学校の演劇部から劇のヒロインをやってほしいという誘いがやってきます。
部に伝わる「伝説のシナリオ」のヒロインを演じるに相応しい人物だという突然の抜擢に応える芹沼ですが、他校から五十嵐と複雑な関係にある琴葉という女子が転校してきます。
王子役に選ばれた五十嵐をこの機会に脱落させようと画策した七島と四ノ宮の話に乗る形で、琴葉がこの劇の出演者として参戦することになり、この劇を巡るドラマが進んでいくことに。
…が、この演劇の話が心底どうでもいい。
そもそもキャラクターの掘り下げも十分に済んでいない状況、90分という短い尺の中でこの話を広げられても余計なパーツが足されたようにしか思えません。
「演劇部が実は廃部の危機に陥っていた」など後からドラマの推進剤として情報が継ぎ足されていきますが、琴葉と芹沼の関係も含めて全体的に妙なギスギスした空気が漂っており、余計にキャラへの感情移入を阻害してきます。
しかもこの演劇部の話、最後までストーリーに絡んでくるのですがそのオチが芹沼のBL趣味との結び付け方という点であまりにも強引過ぎ、最早苦笑いも出ないという感じである意味秀逸でした。
あと芹沼がリバウンドするエピソードを中盤に持ってくるのは置き所としてなんとなく分かりますが、その理由が「勝手に雨に打たれて風邪を引き、男性陣の見舞い品を食べて太った」は意味不明過ぎて反応に困りました。
これらをテンポよく笑える方向に演出してくれればまだ見られたものの、全体に妙にもたついたテンポでお出しされるため笑うのもだいぶ難しかったです。出るとすれば苦笑いくらいでした。
③露骨なキャラの格差
あとこの実写版、最初から最後まで明らかにメインキャラの扱いに差があることが普通に見てても分かります。
ハーレムものや複数攻略対象がいるようなラブコメの場合、「どのキャラと主役が結ばれるのか」という要素は話への興味の持続という点においてかなり重要ですし、「このキャラと結ばれてほしい」と思わせるだけのキャラの魅力を各々に感じさせることも面白さに繋がってくる大事な要素です。
ですがこの作品、ポスターの上半分(五十嵐、六見先輩)と下半分(四ノ宮、七島)とではっきりと劇中の待遇に差があるのです。
まずキャストクレジットの順番からして
六見先輩
五十嵐
芹沼(二人)
七島
四ノ宮
となんとなく察せられる配置にはなってるのですが、特に四ノ宮・七島コンビは全体の扱いがよく分かりません。
どちらもただでさえ芹沼と接点の薄いキャラにもかかわらず、距離を近づける描写が一切無いまま五十嵐を脱落させようとしたり、リバウンドした芹沼を無理なトレーニングで痩せさせようとするため、終盤でいきなり告白シーンを用意されても「そもそもこいつらと結ばれるルート無くない?」としか思えません。
リバウンドの解決法もアニメと同じく、「男同士の絡みをノルマに応じて見せる」というものでしたが、実写版では彼らが芹沼のBL趣味に触れる描写も序盤に少し漫画を読んだ程度でしかないため説得力に欠け、この時点で物語も後半に差し掛かっているというのに何のカタルシスも生まれないという、非常に侘しい状態になっていました。
あとこれは個人的な怒りですが、
二科の出番が5分も無い!
これがアニメを走破した上で一番自分が激怒したポイントでした。
前半に突然出てきて芹沼と踊ったかと思いきや、男性陣を挑発しただけで出番の殆どが終わりというこの程度ならむしろ出ない方が良かったと思ってしまうレベルの小さい役回りで、折角の中山咲月さんが勿体ねえ……!と心の中で叫んでしまいました。
アニメだと二科が同性の目線でバランスを取っていた部分が大きく後退しているのがまた映画のギスギス感を助長しており、キャラに魅力を感じにくいのだと気付かされました。
④「オタク」描写が陳腐
これはストーリーとは直接関係ない部分なのですが、芹沼の「オタク」ぶりを表現するための技法がなんとも言えない雰囲気でした。
中でも戦慄したのがTM NETWORKの「Get Wild」を使った『シティーハンター』のエンディングパロディ。
微妙なチョイスの古さ(30年以上前の曲ですよ…?)と「腐女子」との関係なさ、そしてよりによって割と最近フランス実写版で超再現度の高い「Get Wild」を見たということからかなり序盤にもかかわらずもう呆れるほかなく、その前の『ヲタクに恋は難しい』でもあってようなニコニコ動画風コメントが流れる演出といい映画制作者の間では「邦画のための「オタク」像マニュアル」みたいなものでも出回ってるのかと疑いたくなるような演出の陳腐さでした。
『甲冑乱舞』などアニメ版がかなりディティールを作り込んでいた劇中劇の要素もなんだかおざなりになっていたりと、全体的にマイルドな方向に落ち着けようとしている面が目立ち、芹沼の「オタク」故に描けていた魅力も薄れてしまっています。
……以上が、実写版『私がモテてどうすんだ』の感想になります。
キャラクターも、ストーリーも、オタク要素も、作品を魅力的に作り上げていたものが全てピントのズレたものに挿げ替えられ、役者さんや撮影の頑張りだけが虚しく残るような、本気で勿体ない映画でした。
90分だから最低限サッと見てサッと楽しんで帰れるだろうと甘く見ていましたが、テンポ感もあまりよくないので体感だと妙に長く感じたりもしました。
この作品を観て思いついたのは、かつてBLを表す際に用いられていた「やおい」という言葉。
語源は「ヤマなし、オチなし、意味なし」の略だそうですが、「まさにこの映画のことじゃないか…」などと、虚しいことを考えさせられました。
本当にもう、こんな実写化でどうすんだ。
……さて、次回の映画感想ですが、現在鑑賞済みの作品としては『WAVES』と『透明人間』の2作品になります。
このどちらかを扱うか、それとも新しく観た作品を扱うかは、まだ決めていません。今後考えていきたいと思います。
それではまたお会いしましょう。
ここまでのお相手は、たいらーでした。