主訴とは、医療機関受診時に「一番辛い症状は何か」という事です。歯科受診時に、自身で問診票に具体的に書けるようなヒトの場合には、訴えを知る事が容易なのですが、認知症や精神疾患がありうまく会話が成り立たない場合には(病棟からの)依頼箋だけが頼りです。しかしそれだけでは十分でありません。
歯肉が腫れて触ると(器具で)容易に出血する患者や、部分入れ歯が合わないという訴えの場合にたとえ虫歯があっても(私は)見て見ぬふりをします。これは安易に歯を削る事を避けたい、という事だけが理由ではありません。主訴(いちばん困っている症状)に対しての対応を最優先したいからです。主訴以外に目を向けると歯科治療の終わりが無くなるという問題も生じます。
以前に入れ歯が合わないから暴れる・・。という認知症の高齢女性を診た時、上顎歯肉全体がカリフラワーのように腫れていたのです。医師も看護師も口腔内を確認せず、入れ歯が合わないから(認知症の入院患者の)機嫌が悪いと判断したようでした。高齢者で認知症のヒトは入れ歯へのこだわりが強いヒトが多いです。これは食べなければ生きていけない→食べるためには入れ歯が必要という発想なのでしょう。=(生きるための真っ当な感覚だと私は思います)
このケースは歯肉癌でした。本来、健康なヒトなら「歯肉が腫れて色が変で痛い」というのが主訴となるのでしょう。そして入れ歯を外してあげると、看護師が見ても歯肉の異常に即気づいたはずです。合わない入れ歯を使い続ける事は危険なのです。
小児科の先生や獣医師の方も主訴をを聞き出す事は難しいでしょう。保護者や飼い主が頼りなのかもしれません。私自身も以前飼い猫(オス、雑種、名称マイケル、享年15歳)を獣医さんに連れて行ったときにマイケルに成り代わって伝えました。主訴、現病歴(いつから、どのような経過か)、現症(今の時点での症状)を。認知症や重い精神疾患があるヒトと同様に猫も満足に話せませんからね。