1. 詐欺破産罪とは?|罪となる行為
自己破産を申し立てる最大の目的は、債務者(お金を借りている人)が借金でやりくりのつかなくなった生活を終わらせ、新たな生活を始めることです。
ところが、破産手続きを進める際に「詐欺破産罪」(破産法265条)にあたる行為をしてしまうと、新しい生活を始めるどころか、刑罰を受ける事態にもなりかねません。
主に以下のような行為が詐欺破産罪に該当します
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財産を隠したり壊したりした
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財産を譲渡したように見せかけた、借金を偽装した
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財産の状態を変えて、価値を下げた
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不当に財産を処分したり、借金をしたりした
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債務者以外の人が、債務者の財産を取得した(させた)
1-1. 財産を隠したり壊したりした
破産法265条1項1号は、「わざと、債務者の財産を隠したり、壊したりする行為」を処罰の対象としています。たとえば、借金返済に苦しむ債務者が破産後の生活費に充てようと思って高価な貴金属を隠したり、「どうせ手放さなければならないのだから」と開き直って自分の車を傷つけたりする行為が、これにあたります。
これくらい隠してもバレないだろう、もし発覚しても謝ればよいなどと軽い気持ちで財産を隠した場合でも、詐欺破産罪が成立する可能性が高いです。
1-2. 財産を譲渡したように見せかけた、借金を偽装した
破産法265条1項2号は、本当は存在しない取引や借金を「あるように見せかける行為」を対象としています。たとえば、自分の車について、本当は自分が使い続けるつもりなのに、自分の子どもに車を売ったことにして名義変更する行為や、実際にはお金を借りていない知人の名前を債権者(お金を貸した側)の一覧に記載したりする行為です。
こうした「嘘」がまかり通ってしまうと、実際の借り入れ先が受け取れたはずの配当金が減ってしまいます。そのため、詐欺破産罪として刑罰の対象になります。
1-3. 財産の状態を変えて、価値を下げた
破産法265条1項3号は、物理的に財産を壊す以外の方法で、財産の価値を減らす行為に該当します。たとえば、更地だった土地にたくさんゴミを捨てて土地としての価値を減少させる行為や、借地権付きの建物について借地権を放棄して建物としての価値を減少させる行為などが考えられます。
1-4. 不当に財産を処分したり、借金をしたりした
破産法265条1項4号は、お金を借りている人が持っていた財産を、本来の価格よりかなり安い価格で他人に売ってしまう行為や、不当に高い金利でお金を借りるような行為を処罰の対象としています。
「見せかけた」場合が処罰対象になるのとは異なり、ここでは、そのような取引や行為を実際にしてしまった場合が該当します。
1-5. 債務者(お金を借りた人)以外の人が、債務者の財産を取得した(させた)
破産法265条2項には、債務者以外の人が債務者の財産を取得したり、ほかの人に取得させたりした場合が当てはまります。
ただし、主に3つの条件があります。1つは破産手続開始決定がされた事実などを知っていたこと、2つ目は銀行や消費者金融などの債権者を害する目的があったこと、3つ目は破産管財人(裁判所が選んだ弁護士)の承諾などの正当な理由がないことです。
これらの条件を満たす場合には、市場価格と同程度の価格で買った場合でも、詐欺破産罪が成立する可能性があるため、注意が必要です。
2. 詐欺破産罪に問われるとどうなる?
詐欺破産罪に問われると、懲役刑と罰金刑が同時に言い渡されたり、裁判所から支払い義務の免除が受けられなかったりすることで、いざ自己破産で新たな生活を始めたいというときに、計画が悪転してしまいます。
2-1. 刑事罰に問われる
詐欺破産罪の刑罰は、10年以下の懲役刑(2025年6月1日からは拘禁刑)もしくは1000万円以下の罰金、または懲役刑と罰金刑が両方とも言い渡されることがあります。
行為態様が悪質な場合には刑務所に入る可能性も否定できません。また、罰金刑になった場合、罰金刑は自己破産の免責の対象ではありません。そのため、高額の罰金を全額支払う必要があります。
2-2. 免責が認められなくなる
免責とは、裁判所から「借金を返済しなくてもよい」という判断をもらうことです。自己破産の最終目的は、支払い義務の免除を受けることにより、借金だらけの生活から解放され、新たな生活を始めることです。
ところが、詐欺破産罪が成立する場合、この免責を受けられなくなる可能性が高くなります。なぜなら、詐欺破産罪に該当する行為は、同時に免責不許可事由(めんせきふきょかじゆう/免責を認めない事情)にあたることが多いからです。
簡単に言えば、借金を返済できなくなって債権者に迷惑をかけるかたちで自己破産をして免責を受けようとしているにもかかわらず、さらに債権者を裏切るような行為があった場合は免責が認められないというものです。
免責が認められなければ、破産手続きを経ても借金は帳消しになりません。つまり、破産したのに借金が残り、債権者からの請求も止まらず、生活は苦しいままという結果に終わってしまいます。
2-3. 管財人に否認権を行使される
破産手続きにおいては裁判所によって弁護士のなかから「破産管財人」が選任されるケースがあり、債務者の財産や取引の内容を細かく調査します。
そのなかで破産詐欺罪に該当する行為が見つかった場合、破産管財人は「否認権」を行使することになります。否認権とは、債務者が破産手続きの開始前に行った財産を減らすといった行為の効力を否定する権利を指します。たとえば、1000万円の車を300万円で知人に売った場合、破産管財人が否認権を行使すると、その取引がなかったことになります。
その結果、車を譲り受けた知人は、手元に車があればその車を、すでに車を転売して現金を手にしていればその現金を、破産管財人に渡さなければなりません。このように、否認権が行使された場合、取引相手にも迷惑をかける事態になります。