ひとつの嘘はすべてを嘘に見せてしまう。
人は一秒にも満たない情報から想像力を働かせることができる。そして、散らばった断片をしっくりくる様につないでしまう生き物だから、譲れない真実を埋もれさすことがある。たいていは思い込んだら耳を塞ぎ、睨みをきかす。
それに見えているものが全てでもない。
キラキラしてるものに、惹かれもするし、後ろめたい気持ちにもなる。地味な僕にとって、その光は自分を時折惨めに感じさせるものだった。隣の席のコはキラキラしていた。
ある日、僕はバカをした。
隣の席のコのシャーペンを隠した。その結果、1時間みっちり叱られた。地味な僕を嫌っていた先生が相手だったから言い訳など火に油を注ぐものだと思い、無言を貫いた。隣の席のコはいつも笑みの絶えないコだったが、それ以来口をきいてくれなくなった。
気に入らないコへの嫌がらせだ、イジメだと罵られた。その日は周りの大人から白い目で見られた。
好きだから、意地悪をする。
好きというのが照れくさいから、意地悪で誤魔化す。不器用な人間がしてしまうハイリスクなコミュニケーション。
話すきっかけがほしくて、そのコが使っているシャーペンを隠した。探し始めたら、在処を教えようとドキドキしながらその時を待っていた。
すると、僕は名前を呼ばれた。日直が担当する黒板消しの作業を忘れていたからだ。慌てて教室の端から端へと移動する。
目を放したこの数分の間に予定は狂ってしまった。 そのコの席は忙しなく頭を動かす人たちで囲まれていた。シャーペンがないと大騒ぎで、先生も加わっての捜索になっていた。
冗談とは言い出せない状況だ。
大切な大切なシャーペンだったらしい。好きなコからもらったシャーペンだったと後になって分かった。
正義感の強そうなそのコの友達が辺りを見回しているうちに隣の席の筆箱から探し物を見つけだしたようだ。慌てた時に雑に筆箱に入れてしまい、一部分が覗いていたのだろう。
口下手な僕に気の利いた返しなど思い付くはずもない。しかも天敵に。
別の教室までそのコと一緒に天敵に連れ出された。そして説教が始まった。
何故かと何度も問われる。一番単純で一番辛い質問のせいで心拍数が上がっていった。
「嫌いなの?」
どうしても首を横には振れなかった。横に振れば、嫌いの反対になってしまう。そんな堂々たる宣言を【相思相愛】の先生にする訳にも、本人の目の前でする訳にもいかなかった。
嫌いなの?に頷くしかなかった。
その答えのせいで、目を合わせないことも、偶然道で会っても喋らないことも、コオリオニで目の前にいて捕まえられるのに通り過ぎたことも、僕がした行動全てがそのコへの嫌がらせだったと捉えられた。話すきっかけが欲しかったのに、離れるきっかけになってしまった。
でも中にはこんな奴もいた。
「おまえはイタズラ好きだけど、イジメはしないじゃん。あいつら、おまえのこと分かってねぇな。同じクラスなのに」
僕は、恋を失って、友を得た。愛にも勝るものだった。