二十九話 オシラサマ | 怖い話、大好きブログ。

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過去に投稿した怪談、怖い話などを補完

私自身はお化けを見たというような怖い体験は無いですが、亡くなった祖母から聞いた話は、すごく奇妙で不思議だったのでそれを話します。
 オシラサマを知っていますか?遠野物語にも書かれている神様です。
 私は東京で生まれ育ったので、実物を見た事はありませんが一般的には桑の木で作った木像に衣を着ているのがオシラサマと伝えられています。
 でも私の祖母はそのオシラサマとは違う奇妙なオシラサマを見たことをよく話してくれました。


 祖母の出身は岩手の古城村という場所でした。終戦後、私の実の祖父は戦地から戻るとマラリアを患い若くして命を落し祖母は生まれたばかりの娘(私の母)を一人で育てゆくのに大変心細かったそうです。
 そのとき親戚のツテで糸籾という屋号の家から、乳母を探しているので子供も一緒で良いから住み込みで働かないかと誘いがありました。
 祖母には願ってもない誘いで、何故なら糸籾の家は小字一帯を支配するぐらいの土地持ちの豪農で当時相場などでも大儲けして大変に栄えていて、お給金も良かったそうです。


 祖母が糸籾の屋敷に行くと家の人達は客を歓迎するかのように迎え、そして年寄り達がニコニコと寄ってくると、しきりにお乳は沢山でるか?お乳は沢山でるか?と聞いてきたそうです。
 そして祖母は年寄り達に手を引かれ屋敷の奥座敷に連れて行かれました。
 真っ赤な毛氈が敷かれ部屋には高価な外国の玩具が並び、漆の蒔絵が施された特注の小さな寝台の上に、おくるみをした赤ん坊らしきものがいました。……しかしそれは馬の顔をした白くて奇妙な生き物だったそうです。
 家の者達はそれをオシラサマと言っていました。


 年寄り達は、「さあさあ、お乳を」と急かすように促され祖母は訳も分らずに、おっぱいを与えました。
 乳房に吸い付くその生き物の姿に祖母は、まるで悪夢をみているようだと思う程だったそうです。
 それから祖母とオシラサマの奇妙な共同生活が始まりました。
 オシラサマは手足が未発達で自分で動く事も寝返りを打つ事もできなくて床ずれが起きないように、祖母と付き添いの人が24時間つきっきりで面倒をみていました。
 食事も人間の母乳以外は受けつけず、一生母乳を飲んで生きると言っていました。
 オシラサマはある血筋の人から三対一の確率で生まれるそうです。
 そして生まれるのは決まって双子で片方が健常な子供で、もう片方が奇形児で生まれてきます。
 その奇形児の方に神通力が宿っていて未来を見通す力があったと祖母は言っていました。
 そして健常の子供の方はオシラサマの血筋として当主になり代々家を継ぎ、血縁での婚姻を繰り返し、そこからまたオシラサマを生んできたというそうです。
 でも家の人は余りオシラサマのところには顔を出さず、たまに立派な格好をした家の主がやって来て、オシラサマの前にドカッと座るとゴニョゴニョと何か相談をして帰ってゆくだけでした。


 最初は恐々してお世話をしていましたが、祖母は肝っ玉が据わっていて、お節介ばかり焼く人だったので次第にオシラサマに対して自分の我が子とかわらない慈しみの気持を持つようになっていました。
 そんなとき普段、家の者以外とは決して会話をしないオシラサマが祖母に語りかけて来ました。
 「家の者でも僕に対して、そんな感情で接してくれた人は母様ぐらいだった。だから君に良い事をおしえてあげる。」
 オシラマサの言った良い事というのは、このあと裏庭に行ってごらんというだけの事でした。
 祖母が屋敷の裏庭に行くと一人の男性がいて、たった数分ぐらいでしたが談笑をしたそうです。
 でも祖母は忘れることの出来ない大切な時間だったと私に言っていたのを覚えています。


 そして暫くして祖母のお乳の出が悪くなり、お役御免になり実家に帰されました。
 とうぶん貯えが出来ましたが次の仕事を探しに祖母は村を出ようと考えていました。
 そんなとき裏庭で出会った、あの男性が祖母を訪ねて来たのです。
 それが私の義理の祖父になる芳太郎おじいちゃんです。
 芳太郎おじいちゃんは糸籾の家の跡継ぎでしたが、決められていた結婚を嫌がり祖母を連れて東京に駆け落ちをしたのです。
 祖母もまだ21歳で女ざかりでした。


 祖母はその時は二度と村には帰れないと思っていましたが、二十年ぐらいが過ぎた頃にコッソリと実家の様子を見に戻ったそうです。
 実家の戻ると糸籾の家が途絶えていた事を知らされました。
 ある年の夏、村で軽い夏風邪が流行したのですが、オシラサマの血筋の人達だけ何故か重篤な症状になってバタバタと倒れ亡くなったそうです。
 その後オシラサマを失った家は急速に没落して途絶えてしまいました。
 ちょうど同じ頃、芳太郎おじいちゃんも突然高熱で倒れて危なかった時があったそうで東京の設備が整った大きな病院に運ばれたので何とか一命をとりとめる事ができました。


 祖母は言っていました。オシラサマは全てこうなると知っていたのではないのかと、何故なら東京に逃げた時にオシラサマの神通力があれば居場所なんて、すぐにわかって連れ戻す事が出来たはずなのに、きっとあのオシラサマは祖母の居場所を家の者に尋ねられても教えなかったのだろうと……。


 これが私の祖母が話してくれたオシラサマにまつわる話です。
 お婆ちゃんが幼かった私のために作った御話だったのかもしれないし、事実だったのかは定かではありません。
 ただ気になる事が一つ……。
 先日母方の従姉妹が双子を妊娠しました。でも片方に異常があったらしく減胎手術を受けたそうです。